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サイコシリアル [2]

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「私は人を殺してなんかいないわ。食べただけよ」
そんな僕の問い掛けに対し、霞ヶ窪は笑い続けながら答え、もう一度繰り返した。
「ただ、食べただけ」
と。
「・・・・・・食べた?」
僕は、不意に思い出した。フラッシュバックするかのように、不意に、今回の事件の概要を。
所謂、被害者の遺体に内蔵が残されていなかったということを、思い出した。
「内臓を・・・・・・食ったのか?」
人間の内臓を食う。これがいかに尋常な行動ではないことは、誰にだって分かる。
人食い━━またの名をカニバリズム。
共食い、人間が人間を食うという禁忌。
霞ヶ窪は、カニバリズムの疾患者だ。
「どうしてかなぁ? どうして人間の内臓を食べたことに対して、そんなに嫌悪感や疑問を抱くのかな」
返せない。
あまりの衝撃に言葉を発することが出来ない。
常軌を逸してる。
カニバリズムはサイコパスをも凌いでいる。サイコパスの派生系、亜種とでも例えればいいのだろうか。
サイコパスをより狂わせ、理性と思考を狂わせた存在。
「私はね、人が生きるために動物を食べるのと、人間を食べること、何が違うか分からないよ、涙雫君」
霞ヶ窪は言った。
「人は人を食べなくても生きていけるだろ。何より、人としてやってはいけないだろ」
僕は、やっとのこと言葉を搾りだし、霞ヶ窪に答えた。
戯贈に頼れない今、僕の言葉で止めなくてはいけない。いや、殺さなくてはいけない。この忌々しく不愉快で不合理な事態を。
「人としてね……あは、あははは、あはははははははは! 馬鹿じゃないの? 人としての定義なんて誰が決めたのよ。人を食べちゃダメって誰が決めたのよ。決めたのは人でしょ? 人が勝手にルールを決めて、皆、それに従う。狂っているわ」
「狂っているのは、お前だ霞ヶ窪!」
「私はね、美しくありたいのよ。誰よりも美しくいたいのよ」
「人を食うことと、美しくなることはイコールじゃないだろ」
「イコールよ」
霞ヶ窪は言った。
左手で前髪を上げながら。不謹慎ではあるが、実に様になっていた。妖艶と言ってもいい。
でも、実に不愉快だ。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし