サイコシリアル [2]
「そんなわけで涙雫先輩は、戯贈先輩に気に入られている、いや、最早好かれているんです。戯贈先輩的にも初めての気持ちなのでしょう。だから、どうすればいいか分からないのですよ。処女ですからね」
「他人の裏情報を暴露するな!」
「こんな言い方はあれですが、童貞の涙雫先輩とお似合いですよ」
「てめぇ、朝から美少女二人に童貞童貞言われる僕の身になってみろよ!」
「ちなみに私は、やりまくりの汚れ、以下自重です」
「自重しなくていいくらい、結論が見えたよ」
「嘘ですけど」
「童貞は物事に対して純粋なんだ! 弄ぶんじゃねー!」
朝っぱらから本当に何なんだよ。
殺し屋としての威厳が皆無だ。
「ともかく戯贈先輩は、初めて好きになった、この場合は人間的でも恋心でもどちらでも構いませんが、その人のことが気になってしょうがないんですよ。謂わばストーカー気質ですね」
おいおい、ヤミデレからストデレかよ。
「でも、涙雫先輩もこの話を聞いて安心しましたよね? 先程は悲壮的な表情もしていましたし」
「確かにそう言われりゃ図星なんだけどな」
戯贈に、駒として見られていなくて安心した自分がいたのは確かだ。
そんなにも戯贈に、感情移入をしていたのだろうか。僕が知らない間に、僕も戯贈のことを好いて来ているのだろう。
愚問だな。
好いていなかったら、今はもう頭と体は切り離されているだろう。
「というかさ、九紫。何故、お前は殺し屋になろうと思ったんだ?」
戯贈のことを考えていたら、ふと疑問が浮かんだ。戯贈が何故殺し屋になったのかも未だに知らない僕であったが、そこはプライベートな問題だ。そしてデリケートな問題でもある。急いで聞く必要もないし。
ただ九紫には、気を使わなくていいから、率直に聞いてみたわけだ。
「私ですか? 私は家柄ですよ。土地柄ではなく、家柄。家系がそうさせているんです」
九紫は僕の期待に答え、差ほどというか微塵も気にした素振りを見せることな
く、話始めた。
「私の家系、九紫家は、古くからの殺し屋の一族なんです。いつからかは、忘れてしまいましたけど、相当な時代を遡ることは間違いないですね」
「そんな歴史ある家系なんだな。殺し屋ってのが怖いけど」
「怖くはないですよ、訓練にちょっと戦場へ送り込まれるくらいです」
「ごめん、ちょっとの意味が理解出来ない」
さすが殺し屋一族。次元が違いすぎる。
「ともかく、九紫家は『中立』を思想とする『永世中立』を代表とする一族なんですよ。というか、『中立』という思想を掲げて組織を完成させていったのが九紫家らしいですけどね」
九紫は、あたかも当然という様な表情で話してはいるが、相当なポジションにいる殺し屋だ。
創設者一族の末裔。
影の支配者。
しかし、九紫はそういう雰囲気を醸し出していない。
それが彼女の魅力なんだろうか。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし