サイコシリアル [2]
「私と長時間に及んで話し込んでいたことに対する、嫉妬。戯贈先輩は、本当に涙雫先輩が好きなんだと思いますよ。恋愛感情がなきにしろ、人間的に好きなんだと思います」
「戯贈が嫉妬か・・・・・・なんか想像すると怖いな」
「まだピンと来ていないみたいなので説明させて頂きますと、涙雫先輩と出会う前の戯贈先輩は決して群れない人だったんですよ」
確かに九紫の言う通り、戯贈のイメージに、群れるという単語はない。
けれども戯贈には、行動力がない。力を駆使出来ない変わりに、言葉を駆使する。
所謂、心理戦だ。
だから、ここで疑問が一つ。
「戯贈は、今まで言葉で殺しを行って来たんだろ? でも、それにはいずれ限界が来る。今となれば、僕という体がいるわけだけれども、昔はそうもいかないだろ?」
そういうことだ。
決して群れない、ということは一人ということ。悪く言えば孤独だ。
「駒━━ですよ、涙雫先輩。玩具の駒ではなく、人としての、駒」
駒、と来たか。
駒と言われると、人を物だと言っているような言い方だ。
自分と関係のない人間は、全て物に等しい━━そう聞こえる。
「涙雫先輩、今、とても嫌な気持ちになったでしょう? まさしくその通りですよ、涙雫先輩。戯贈先輩は人を物として見ていたんです」
「それじゃ僕も駒の一人、いや、一つってことじゃないか」
一人ではなく、一つ。駒は決して人間ではないのだから、一人と数えることは出来ない。
「初めはそういうつもりだったんでしょうね。涙雫先輩も、斬島事件の際に脅されましたよね?」
「あぁ・・・・・・脅された」
あの時の戯贈は、本当に衝撃的だった。
出会い頭にナイフを突き付けられたのだから。
首筋から制服のボタン、今考えれば力を使わず流れるような動作だった。
下手しなくても、大抵の人間はあれだけで殺せる。
「いつもそうやって駒を作るんですよ、戯贈先輩は。殺人対象に近しい人を脅し、駒として使う。全てがそういう手法ではなかったみたいですが。謎が多いんですよ、戯贈先輩は」
それじゃ、その言い草じゃ、僕はやっぱり駒じゃないか。
お気に入りの駒。
古くなったら交換する玩具。
「何を悲壮的な顔をしているんですか、涙雫先輩。今までの駒は使い捨てだったんですよ。殺し、が終わったら捨てる。殺しの度に交換する駒。けれど、涙雫先輩だけは違ったんです。表現は悪いですが、使い捨てではなかったんです。戯贈先輩は、涙雫先輩のことを人として見ているんですよ。まず第一に、頭と体の時点で駒ではないですよ」
九紫にそう言われ、何故だか分からないが、安心する僕がいた。
使い捨てじゃなくて良かった、と。
「それに住み込みなんてもっての他ですよ。異例です、異例。過去の私が知っている戯贈先輩では、まず有り得ないですね。組織中に衝撃が走りますよ」
「そんなにか?」
「私が殺しを失敗する確率並みに低いですね」
「ごめん、例えが分からない」
「ガリガリ君で当たりをひくより確率が低くて、一つの文明が滅びる確率より
も高いです」
「文明と一緒に例えられてガリガリ君も幸せだろうよ!」
少し真面目な話をすれば、直ぐにこれだ。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし