サイコシリアル [2]
戯贈にああは言ったものの、今僕が知り得る状況としは限られている。
被害者は全て美人、犯行手口は臓物を取る、ということだけ。
この情報だけでは、今回の対象に辿り着くわけがない。依頼者である猿渡警部も無理を言ってくれたものだ。というよりも、犯人を見つけるのは警察の仕事じゃないのか。明らかに職務怠慢だ。
戯贈曰く、報酬として警察の極秘資料や非公開情報を見られるから問題ないらしいけど。
見つかったら懲戒免職だな、猿渡警察は。
ま、ともかく、猿渡警部に文句を言ってもなにも始まらない。
本当は、罵詈雑言を捲し立てたいのだけれども。
僕は、朝っぱらからそんなことを考えながら、朝食を食べていた。
本当に朝食には、全くもって似合わない考え事だ。
「お兄ちゃんどうしたの? そんなに思案顔しちゃって」
僕の向かいで、同じ朝食を食べている妹、志那が言った。
「なんでもねーよ。それに中学一年生が思案顔と言うなよな。可愛げがゼロに等しい」
「だって意味深長な表情をしていたから。乾坤一擲の時でも来たの? 大丈夫、お兄ちゃんはいつも、快刀乱麻を断つ、の如くだったじゃない」
「今時の中学生って皆そうなの?」
「皆、不撓不屈の精神なのだけは断言できるよ」
「だから可愛げがねーんだよ!」
「でも、そんな妹が可愛くて仕方がない」
「可愛くねーよ!」
「むしろ大好きなんでしょ?」
「違う! 愛している!」
「お兄ちゃんキモイ」
朝からどんな話しているんだよ、我らが兄妹は。
仲がいいことに越したことはないのだけれど、少しばかり特殊な気がする。
特殊で特異な兄妹という訳だ。
「だいたいね、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、いつも私のことをませてるとか言っているけど。今時の中学生だってオシャレもするし、恋だってするんだよ。いい? お兄ちゃん。こんな私をませてるとか表現しちゃうのは、お兄ちゃんが童貞だからだよ?」
「朝からヘビーな内容だな、おい! 童貞はな、童貞に誇りを持っているんだよ」
「結局それは、脱童貞の人たちへの嫉妬から来る強がりでしょう? 童貞が誇りだなんて、男として情けなくないの?」
「僕はな、今から約百年前、古き良き日本の頃のように、結婚まで童貞を貫き通すんだよ」
「お兄ちゃん、そういう貞操観念はね、戦後に入るにつれて次第に崩壊していったんだよ? 昭和三十年代に入るとい、更にその風潮は強く見られるようになって、童貞は恥として見られるようになったの。分かる? お兄ちゃん。童貞は、美徳じゃなくて、恥だよ」
僕は今現在、朝から妹に童貞であることを否定されている兄、男に成り下がっていた。
というよりも、情けない兄だった。
そんな朝の一コマであった。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし