サイコシリアル [2]
「照れてなんかいないわよ」
「読心術を使っていいのは猿渡警部だけだ!」
「私の場合、読唇術よ」
「喋ってないのに唇の動きが分かるのかよ!」
「涙雫君は語り部に向いてないみたいね。変わってあげるわよ」
「よし!出来るものならやってみろよ!」
涙雫君は愚かにもそう言った。
本当に愚か。これは政権交代と言っても過言ではないわね。
彼は、本当に頭が悪くて困ってしまう。理解力はあるのだけれど、頭が悪い。
頭の回転が早いのだけれど、頭が悪い。鈍くはない、単純な馬鹿。
ま、それでも私は彼のことが気に入っている訳だからしょうがないのだけれども。
母性本能というやつかしら。
ともかく、この場合は涙雫君が頭が悪いということだけ理解してほしいわね。
侮蔑を司る言葉の数々は、彼の為に生まれたようなものなのだから。
「ここぞとばかりに言ってくれたな戯贈!」
「心のうちがばれてしまったみたいね。やっぱり私には向かないみたい」
「心のうちって逆に悲しいだろ! 気に入っているってのが唯一の救いだけど!」
政権交代。
語り部は僕に移行します。
「それはそうと、戯贈。僕は結果的に殺し屋の組織に入った訳だけど、斬島の一件以来、特に何も起きていないんだよな?」
「ええ、殺し屋の仕事というのは、そんなに頻繁にある訳ではないわ。まず殺し屋という職業は正確に言えば、この世にはないのだから」
「それはそれでいいんだけどな。どうも、まだ実感が湧かない。まぁ、湧いていいものでもないんだろうけどさ」
そうね━━とだけ答え、戯贈は黙った。
一般人を殺し屋に引き入れてしまったことに罪悪感でも感じているのだろうか。
ま、それはないだろうな。
だって戯贈は、ほんの少し前の戯贈よりも人間味が増しているのだから。
そんなことを考えながら、僕は残りの弁当を片付けた。
作品名:サイコシリアル [2] 作家名:たし