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ひとつの桜の花ひとつ

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走って


「えっちゃん いるかなぁ・・あっ、いた」
ケーキ屋さんのドアを直美が開けながらだった。
「こんにちわ、まだ、大丈夫ですよね」
「あら、いらっしゃい」
直美の顔に、にっこり笑顔でえっちゃんがこたえていた。
「もう、足って大丈夫なんだ・・」
「おかげさまで」
俺にも気づいて声をかけてくれていた。
「で、今日はなにがいいのかしら・・・」
「わたしは、このフルーツいっぱいので・・劉はなんにするの」
「俺は、このベイクドチーズケーキがいいや、俺は1個でいいけど、直美はそれだけどいいの・・」
「おなかいっぱいだしなぁ、2個は無理かも・・」
「そっか、じゃあ 一つずつでお願いします」
「はぃ、ちょっとまってね」
レジに表示された金額をレジ横のお皿に出すと、持ち帰りようの箱に丁寧にケーキをおさめながらだった。
「これ、新作なんだけど、味見してもらえるかな・・一緒に入れておくから」
「えっ、ありがとうございます、それも気になってたんですよー」
直美がにっこり返事をしていた。
言われた、ケーキは「イチゴのシフォンケーキ」って名前らしかった。
「これなら 軽いから、食べられるわよ、はぃお待たせ」
「ありがとうございます。これから、帰っていただきます」
「いつも、ありがとねー」
「はぃ おやすみなさい」
直美と一緒になって頭を下げて、お店の外にだった。

「おいしそうだよねー、もらっちゃったケーキも・・」
「少しは、わけてよね、俺にも」
「半分あげるわよ、ちゃんと、いつもそうしてるじゃない」
「なんか、すこーしだけ直美のほうがそういうのって大きかったりしないか・・」
「そんな事ないって・・劉のほうが大きいんだってばいつもは・・」
「そうかぁ」
「そうですって」
歩きながら、ケーキーの箱を抱えて子供みたいにうれしそうな顔の直美に怒られていた。
「あっ おれ、べったら漬け買うわ、ここのおいしいんだよねぇー」
「好きだよねー、劉って・・また、お茶飲みながら食べちゃうんでしょ」
「だってさ、おいしいぞ、ここのって」
豆腐屋さんなのに、自家製のべったら漬けが、とびっきりにおいしくて、大好きな食べ物の一つだった。もちろんお豆腐もおいしい店だった。お豆腐とべったら漬けを1本買っていた。
「ほどほどにしてよね、ずーっと食べてるのってダメだからね」
「そんなに食べてないって」
「ボリボリいい音させながらテレビとか観ながら食べてるくせに・・」
たしかに、そんな時もあったから、黙って歩いていた。
「いいから、寒いから早く帰ろうよ・・」
「あっ 都合が悪くなったからって・・話題変えた・・」
「そんな事ないって」
苦笑いだった。
直美も苦笑いをしていた。

「うわぁー 寒いなぁー 今暖房点けるから・・」
5階の部屋に戻ると、外よりは暖かだったけど、部屋の中もまだまだ寒い2月だった。
「うん、ちょっとわたし着替えとって来ちゃうから」
ケーキの箱を置いて、3回の自分の部屋に行くようだった。
「ドアの鍵は閉めないでいいよー」
「うん、すぐにもどるねー、お湯沸かしといてよねー」
「うん」
返事したのと同時にドアがしまる音がしていた。
台所にたって、やかんをガス台の上に置いて、ネクタイを緩めながら、コートと背広を脱ぎだしていた、どうにも疲れる格好だった。
それに脱いだらきちんと吊るすのもまた面倒な事だった。
スエット上下に着替えて、ワイシャツを洗濯機に放り込んで、大きな部屋に戻って、テレビをつけると8時をまわっていた。
しばらく座ってお湯がわいたから、コーヒーを入れだして直美が戻ってくるのを待っていたけど、なんだか、なかなか戻ってこなかった。
「もしもしー」
「あ、なに・・」
電話をかけていた。
「いや、遅いからどうかしたのかなぁーって」
「夕子ちゃんに電話してたから・・」
「そっか、ならいいや」
「あっー 心配したの・・ねぇ、心配したんでしょ・・」
「うん、少しね・・」
「もー 心配なら電話じゃなくて、走ってくるんじゃないの部屋まで・・」
「そこまでは・・」
「大好きなら、走ってきなさいよー 早くー」
言い終わると、いきなり電話が切れていた。
ため息一つで、玄関の鍵を閉めて外廊下を走って、やっぱり、階段だろうなぁーって思いながら3階に向かって走っていた。さすがにまだ、1段ずつだった。
「早いねー さすがぁー、劉だねー」
3階にたどり着くと、エレベーター中から大きな声だった。
「えっー はぁー」
声にならなかった。
「足は大丈夫ー 早く 乗って、劉」
「初めて走ったぞ、退院してから、俺・・」
「忘れてたんだもん」
「忘れるかよ、そんな事、まったく・・走って来いなんて言うなって・・」
「ごめん、いいから 早く乗ってよ、部屋に帰ろう」
「うん」
わざと 少し怒った顔でエレベーターにだった。
「劉、直美のためだけ考えて走ってきたでしょ・・」
ドアが閉まると顔を腕を取って顔を覗き込みながら笑顔で聞かれていた。
「足、大丈夫かなぁーって考えながら走ってた・・」
「うそばっかり、はぃ ご褒美ね」
抱きつかれてキスをだった。
「今日も、格好いいよ、劉・・」
「直美もかわいいよ、でも、」
キスされていた
「その先は なしね、ゴメンね、いじわる言って・・」
かわいい直美だった。
静かにエレベーターが5階にたどり着いていた。


作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生