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ひとつの桜の花ひとつ

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いったりきたりの


「明日って、何時に発表なの、夕子ちゃん」
「10時です」
テレビをみながら、ソファーの前でゆっくりお茶を飲みながら直美と夕子の話を聞いていた。
「じゃぁ ゆっくりできるね、1時間かからないぐらいだからね」
「はぃ、すいません、わがままいって・・」
「お天気いいといいね」
「どうですかねぇ・・」
直美は、試験の内容はあまり聞かないようにしているようだった。
「直美さんの部屋って何階なんですか・・」
「3階だよ・・」
「ここと一緒ですか、部屋のつくりって・・」
「違うよ、良かったら、行ってみる・・着替え取りにいくし・・」
「いいんですか・・」
「いいよー 一緒にちょっと行ってみようか・・劉、ちょっと着替え取ってくるね」
言い終わると、もう夕子と一緒に立ちあがって玄関に向かっていくようだった。
「すいません、お借りしまーす」
振り返って元気な顔を夕子が見せていた。
こっちは お腹もいっぱいだし、ビールも飲んでいたから、10時過ぎだったけど、なんだか眠くなっていた。
ソファーにこのまま横になると、すぐにでも眠りつきそうだった。

「ただいま・・」
戻ってきた直美の手には、明日着る洋服なのか紙袋が下がっていた。
「すいません、のんびりしちゃいました・・」
夕子は手にマフラーを持っていた。直美が良く高校生の時にしていた、手編みのマフラーだった。
「もらっちゃいました・・どうですか、似合いますか、柏倉さん」
「俺に、聞かないで 彼氏にでも聞きなよ・・」
「うわぁー やっぱり 直美さんのほうが似合ってましたか・・高校生の時に、これしてたって聞きました」
「そうだけど、比べてるわけじゃないよ・・」
比べてはいなかったけど、たしかに去年の今頃の直美の姿を思い出していた。
「似合ってるわよ、夕子ちゃん、かわいいよ」
直美が、あわてて口をはさんでいた。
「はぃ、明日からずーっとします。ありがとうございます」
「もうすぐ 冬終わっちゃうけどね・・」
「まだ、まだ、寒いですから・・」
夕子は、うれしそうに、マフラーの端を握って話を続けていた。
「劉、お風呂入れちゃおうか・・」
「うん、じゃぁ、俺布団持ってくるわ・・直美の部屋の鍵貸して」
「はぃ、これ・・」
夏樹にもらったらしいシーサーの付いたキーホルダーの付いた鍵を渡されていた。相変わらず俺の部屋の鍵は持ってるくせに、自分の部屋の鍵は独り占めになっていた。
「クローゼットの中だよね・・」
「うん、大丈夫なの、ひとりで・・」
「うーん掛け布団もだと2回かな・・」
「じゃぁ 私も一緒に行こうっと・・夕子ちゃん、ちょっとだけお留守番しててもらってもいいかな・・すぐに戻りから」
「はい、いいですよ、お風呂入れて待ってます」
10時まわっても、まだまだ、元気な高校生だった。
「蛇口は、俺がひねってくけど、溜まるまでには戻ってくるから、ゆっくりしてなよ」
「じゃぁ、夕子ちゃん、劉と一緒に行ってくるね・・すぐに戻るね」
先に直美が玄関にで、俺はお風呂の蛇口をひねってそれに続いていた。

「なんか、けっこう明るくて助かっちゃったなぁ、夕子ちゃん」
「そうだねぇ、私のバイト先に来たときからだよ、自信あるのかもよ・・心配しちゃって私も劉も損しちゃったかも・・」
「ま、それならそれでいいけど、とっても試験出来たのなんて 聞けなくてさ、俺・・」
「わたしも聞いてないもん・・」
「大丈夫だろ、きっと・・」
「うん、教えてた時の感じなら、合格してるとは思うんだけどね・・」
「うん、 なんか 俺ってこの部屋に入るのって久しぶりのような・・」
直美の部屋の前について鍵をまわしている直美にだった。
「そうかなぁー いいよー 入っても・・」
「うん、俺が敷布団もってくから、掛け布団たのむわ」
「毛布は劉の所に3枚あったよね・・」
「うん、大丈夫だね」
「寒いから、早く戻ろう・・ここね」
あけた扉に掛け布団が上にあったから、それを取り出して直美にだった。
「重くない、平気・・」
「重くないけど、持ちづらいや・・」
「だったら、乗せてもいいよ、この上に・・そのかわり前見づらそうだから、前案内してね・・」
敷布団を抱えてだったけど、掛け布団を載せても平気そうだった。
「じゃぁ、 乗せちゃおうっと・・」
断るかと思ったらあっけなく 重ねられていた。
「ぶつかりそうになったら、言ってくれよー」
「うん、さすがぁー 劉・・」
「そんな事言わなくていいから、早く帰ろうよ」
「はぃ、これが ほんとうの今夜のお休みのキスね・・」
両手に布団いっぱいで、それってないだろうって感じだった。

「お待たせー 」
直美が先に声をかけて、部屋に入っていった。
出る時もだったけど、また、玄関でちょっと苦労しながら部屋にだった。
「劉、ここに置いちゃって・・」
直美に言われたところに布団をおろして、息を一つだった。
「もう、ソファーどかして、布団引いちゃおうか」
「そうしようか、夕子ちゃんそっちもらってもいいかな・・」
「いいですよー」
「あっ 俺持つわ・・夕子、足まだあぶねーだろ・・」
あわてて、直美に声をかけていた。
「ごめん、すっかり忘れてた、劉、そっち持って」
「大丈夫ですって、直美さん」
杖もつかずにもう歩いていたけど、俺よりも重症の骨折だったし、ギブスもまだ取れたばかりのはずだった。
「いいから、そっちに少し行ってっていいよ」
「はい、すいません」
部屋の隅に直美と持ち上げたソファーを移動していた。
それから、持ってきた布団と引いて、隣の部屋から、また布団を運んでいた。
「夕子ちゃん、シーツだけ手伝ってね・・」
「はーい、なんか楽しいですねー直美さん」
「そうね、今日は早めに寝ちゃおうね・・」
「えっー もったいないです」
「布団の中に入ってから話すのが楽しいんじゃない・・」
「はぃ、そうします」
敷布団は2枚だけだったけど、毛布と掛け布団はそれぞれにだった。
「あっー 」
急に大きな声を夕子が出してお風呂場に早足だった。
たぶん、もう、あふれているはずだった。
直美と俺は布団に横になって、夕子の背中をみながら笑顔をかわしていた。

作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生