小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ひとつの桜の花ひとつ

INDEX|24ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

お風呂の間に


「ありがとうございました、お先ですいません」
夕子がタオルで髪の毛を拭きながら戻ってだった。
「はぃ、ドライヤーで乾かしちゃってね」
直美がドライヤーを夕子に渡していた。
「あっ すいません」
「風邪ひいちゃうから、使ってね、それから、良かったらこれも使っていいからね」
言いながら、直美は化粧水とか顔のクリームみたいなセットも出しているようだった。
「わたし、いいですよー」
「だめよー クリームぐらいはつけなさいよね、冬なんだから」
「はぃ、では お借りします」
「じゃぁ、わたしもお風呂入っちゃおうっと・・良いよね、劉」
「うん、いいよー」
やっぱり、なんとなく 夕子のすぐ後にお風呂っていやだたから、直美が先は、もちろんの事だった。
「あのう、遠慮しなくてもいいですから 直美さん、柏倉さんと一緒にどうぞ・・」
「えっ、やだー なに言ってるのよ」
「いいですって、いつもどおりにどうぞ」
「いつも 別だってば・・」
「あのう、冗談ですから・・そんなに・・」
「やだなぁー もう、劉もなんか言いなさいよー、もう・・」
言いながら少し顔をあからめて、笑いながらお風呂場にバスタオルを抱えてだった。
「夕子ちゃんさ、直美ってそういう話って本気にするから気をつけてね・・」
「ちょっと からかっただけですよー うれしそうでしたよ、直美さん・・今から一緒に入っちゃえばいいじゃないですか、柏倉さんも」
うれしそうに夕子が俺までからかっていた。
「こらー」
直美の笑った声はお風呂場の前からだった。
声を聞いた夕子は首をすくめて苦笑いだった。

「柏倉さん、ビールまだ飲みますかぁ」
コップのビールを飲み干すと夕子に聞かれていた。
「もう、いらないから・・いいよ」
「まだ、飲んでもいいじゃないですか、そんなに遅い時間でもないですよ」
まだ11時になったばかりだった。
「うーん お風呂上がって、直美も飲むようだったら少し飲むけど今はもういいよ」
「わたしも、少し飲んじゃってもいいですか・・」
「うーん、いいような ダメなような・・飲んだ事あるの」
「少しならありますよ」
「うーん、困っちゃうなぁ、ごめん直美に聞いて・・」
本当に返事に困っていた。
「えっー ちょっとならいいじゃないですか・・」
「ちょっとでも、いっぱいでも、直美に聞いてよ・・後で怒られたらイヤだもん、俺」
「怒ったりしますか・・直美さんも」
「あんまり、怒らないけど、たまーにはね」
「ふーん、そうかぁ・・」
「その時は、どうするんですか、柏倉さんって」
「謝るよー だいたい、そんな時って後から考えても俺、悪い事多いから・・」
「怒られて、怒ったりしないんですか・・」
「そりゃぁ、あるよ、納得いかない時ってのもあるし、でも怒ってるのに黙っていられるよりはずっといいや、怒られたほうが・・」
「柏倉さんも 怒ったりするんですか、直美さんに」
「俺かぁー もちろんあるけど、ものすごーくはないかなぁ・・でも、いつかは、あるかもね・・なかったら変でしょ」
「なかったら変なんですか・・それって」
「変だよー だってさぁ、好きでもなにかあったら怒ったりはするって・・それにケンカしたくないなぁなんってことばっかり考えてたら、そんなの窮屈で疲れるわ」
「嫌われたりしたら やだなーって思ったりしませんかぁ・・」
「そりゃそうだろうけど、そればっかりだと疲れるだろ」
「でも、嫌われたくないもん・・」
「疲れるぞ、そればっかりだと・・」
「いっつも、緊張しちゃうもん」
病院で見かけた、彼のことらしかった。
「緊張いっぱいは困るけど、少しの緊張はずっとしてたほうががいいよ」
「柏倉さんも、いまも 直美さんの前で緊張しますかぁ・・」
「微妙に緊張ってのとは少し違うかもしれないけど、ものすごーく、なんでもくだけてるわけじゃないよ」
自分でもよくわからないような言い方だった。
「直美さんもなのかなぁ・・」
「それは、俺にはわかんないや」
「あとで、聞いちゃおうかなぁ・・」
少しうれしそうな、少し考えながらの顔の夕子だった。
「彼って、名前なんだっけ・・健司君だっけ・・」
「そうですよー」
「大学行くんでしょ 彼も」
「うん、本命の発表はまだだけど、一つ受かったから・・そんなに会ってないんだけど・・」
「ふーん、そっか、付き合ってるんでしょ」
「付き合う前ととあんまり変わってないんですけどね・・」
首を横に小さく傾けながらだった。
「そんなに急に変わっても変なんじゃないの・・」
「柏倉さんと直美さんって高校生の時ってどんな風だったんですか・・」
「どんな風って、田舎だから、デートなんかするとこなんかないし・・学校で話すのが1番多かったけど・・」
「休みに遊びになんか行かなかったんですかぁ・・」
「えっとね、その遊びに行くところが無いんだって」
「そんな田舎なんですか」
「はい、そりゃぁもう」
夕子の思ってる風景と俺と直美の田舎は少しかけ離れているようだった。
「おじゃまじゃなかったですか、泊まっちゃって・・」
「いや、全然、毎日は困るけど・・」
「毎日は泊まりませんよ、大丈夫です」
「おかーさんだっけ、 さっき電話でたのって・・」
「はぃ、少しはダメって言われると思ったんだけど、あっさりで、びっくり」
たしかに、それは、俺も思ったことだった。
「夕子ちゃん、おとーさんには電話しなくてもいいの・・」
「おとーさんより、おかーさんの方が厳しいんです、うちって」
なんとなく病院であった印象は俺もそんな感じだった。
「でも、電話しておきなよ、おとーさんにも・・もう帰ってるでしょ、寝てはいないでしょ、まだ」
「いいですよー」
「いいから、しておいた方がいいって、そうした方がまた、直美のところにも泊まりにこれるよ、きっと」
「うーん、どうしようかなぁ、なんか言われたらいやだしなぁ・・」
「電話して、何か言われたら、また、直美に電話口に出てもらえばいいよ」
「じゃぁ、そうします、直美さんがお風呂でたら、かけてみます」
前から思ったことだったけど、素直でいい子だった。
「でたよー 劉、入っちゃってー」
お風呂場からだった。
「うん、今ねー」
「ふっー 気持ちよかったぁー 夕子ちゃんもコーラか牛乳でも飲む・・」
髪の毛をタオルで巻きながら冷蔵庫を開けてだった。
「あのー ビールって飲んじゃいけないですか・・」
「えっー 夕子ちゃん飲めるんだ・・」
「少しなら・・柏倉さんに飲んでもいいですかって聞いたら直美さんがいいっていうならって・・」
「えっー こまっちゃうなぁー もうー」
直美に顔を見られていた。
「えっと、そういうことで、俺は風呂ね、あとはよろしくね、あっ電話もね」
「もう、まったくー 電話ってなによー」
「それは 夕子ちゃんに、聞いてねー」
少し怒られそうな気がしてたから、あわててお風呂場に早足だった。
「劉ー 逃げるのはいいけど、着替え持ってきなさいよー」
「ごめん、後で、ここに置いといてー」
「もう、いつもなんだからー」
あわてて、服を脱いで風呂場のドアを開けていた。
「怒られてますよー 柏倉さーん 謝った方がいいですよー」
夕子のうれしそうな声がお風呂場の中まで聞こえていた。
作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生