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ひとつの桜の花ひとつ

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湯気を囲んで


「夕子ちゃん、寒くない・・」
「はぃ、直美さん 寒くはないんですけど、袖が・・」
「大きいかなぁ、少し・・」
ソファーの前に簡易卓上コンロを出しながら台所を見ると確かに肩のラインからしても俺のカーディガンは夕子には大きいようだった。
「でも、大丈夫です、こうやって少しまくっちゃえば・・」
夕子は言いながら袖を捲り上げていた。
「うん、平気だから まくっちゃっていいよ、汚れてもいいし・・それって今は、わたしが部屋で着てるだけだから・・・」
「はぃ でも、たぶん、これで大丈夫です」
言いながら、こっちのテーブルにお皿を準備しながらにっこりの夕子だった。
「劉、ビール飲むんでしょ・・」
「うん、出来上がったらでいいよ・・」
「コップだけ、先に用意してくれる・・」
「うん」
言われて、食器棚から夕子の分をいれて、三つテーブルにだった。
「ねぇ劉、ご飯も食べるんでしょ・・」
「うん、直美も夕子も食べるでしょ」
「炊かなきゃいけないんだけど、待ってもらえる、たぶん30分ちょっとかかっちゃうかも・・」
「うん、いいよー 待つから」
「じゃぁ、ご飯から炊こうか・・」
直美が俺との会話をやめて、夕子にだった。
「お米研ぐんですよね・・直美さん」
「うん、ここにお米あるから・・そうだなぁ、今夜の分だけでいいから2合でいいかな・・夕子ちゃんできる・・」
「はぃ、任せてください」
「じゃぁ お願い、わたし、ちょっと休憩。お米研げたら、ここに入れて、このスイッチ押すだけね」
「はい」
夕子の返事を聞きながら、直美が横にだった。
「ちょっと、ちょうだいね」
「いいよぉ」
飲んでいた牛乳のコップを直美にとられていた。
「いま、おでんのお出汁とってるから、大丈夫だよ、あとは大根から、順番に入れて炊けばいいだけだもん」
「そうかぁ、じゃぁ、のんびり待つわ」
「すぐ、出来るからまっててよ」
「いいよー 夕子が泊まっていくなら、時間たっぷりあるし」
「うん、なんか楽しいや、久しぶりに、にぎやかなご飯だね」
1月の直美の誕生日を大場達とここで鍋を囲んでお祝いしたのが、1番近かったにぎやかな夕飯だった。
「出来ましたぁ ここ押していいんですよね、直美さん」
「そうそう、押したら、こっちで休んでいいよー もう あとはやるから」
「はぃ」
「お茶いれようか、夕子ちゃん・・お湯沸いたから」
「はぃ いただきます」
「じゃぁ 座っててね」
お茶筒を手に台所に立って夕子と入れ替わりだった。
「はぃ、どうぞ」
俺と夕子と自分の分の日本茶をテーブルの上にだった。
「すいません、ありがとうございます。手伝いますよ・・」
「大丈夫、御出汁は出来たから、いま、おでん種順番に入れてるだけだから・・わたしも休憩ね」
良くわからなかったけど、直美にはこだわりの順番があるみたいだった。
「夕子ちゃんさぁ、 寝る場所なんだけど嫌じゃなかったら、ここにお布団引いてみんなで寝ようかなぁーって思ってるんだけど、どうかなぁ、嫌なら下のわたしの部屋で、夕子ちゃんと私でだけど・・」
「おじゃまじゃなけりゃ、私もここでがいいです」
「じゃ、並んで寝ようね、夕子ちゃん」
「はぃ」
「劉は寝相悪いから、私が間に入ってあげるね」
「そんな事言わなくても、隣になんか寝ないですから・・」
夕子に直美が笑われていた。
「夕子ちゃん、劉の隣はイヤだってさ・・」
最後は俺が直美に笑われていた。

「さ、できたよー 食べようねー」
湯気が上がった土鍋の蓋を取りながら直美がうれしそうだった。
小さなテーブルの上には、おでんを作りながら作った 寒ブリの煮魚も並んでいた。それに昨日買ったべったら漬けもだった。
「おいしそうー」
湯気の中で夕子が笑っていた。
「では、 いただきまーす」
俺の声につられてみんなの声が響いていた。
「夕子ちゃん、いっぱい食べてね・・」
「はぃ うーん 直美さんおいしいです」
「うん、おいしいねー 」
料理の得意な直美だったから、いつもおいしかったけど、今日のおでんは特においしく感じていた。もちろん脂の乗った寒ブリの煮付けもだった。
「ブリもおいしいわ、これ・・」
「それは、たぶんお魚がいいからよ」
遠慮がちだったけど、得意げな顔にも見える直美だった。
「柏倉さん、はぃ タコどうぞ」
「おっ ありがとう」
夕子が串に刺さった、タコを探してお皿にだった。
「あー 私には、大根ちょうだい、夕子ちゃん」
「はぃ ちょっと待ってくださいねー」
「直美さん、はぃ どうぞ・・」
「ありがとねー 」
「私も大根食べようっと・・」
大根も短い時間しか炊いてない割には、おいしそうな色をしていた。
3人とも熱々のおでんをほおばっていた。
「ふー あったまるわー ご飯ももらってもいい、直美・・」
「うん、ちょっと待ってね、夕子ちゃんもご飯だそうか・・」
「はぃ いただきまーす、うまく炊けてるかはしりませんよー」
「だいじょうぶでしょ」
立ち上がって、炊飯ジャーから直美がお茶碗にご飯をよそっていた。
「はぃ どうぞ・・ちょうどよく炊けてるみたいよ」
「どれ、うん、おいしいよ、夕子ちゃん」
ご飯を一口ほど口に入れていた。
「うん、おいしいよ」
直美も続いていた。
「水加減だけで、あとはなにもですけど・・炊きたてだし、おいしいですよ、私じゃなくても・・」
照れながら夕子もご飯に口をだった。
「そんな事ないわよ、ね、おいしいわよ」
「いえ、おでんのほうが もっとおいしいですから・・お料理上手ですよねぇ、直美さんって、手際いいし・・」
「そんな事ないって、とんでもないもの作っちゃう時あるし・・あっでもね、お好み焼きとかも上手だよ、好きなものだけは、つくるのうまいかも・・」
「えっー 今度、お好み焼きも食べさせてくださいね、大好きなんで・・」
「いいよー いつでも」
「いいなぁー 1人暮らししたいなぁ・・」
「実家のほうがいいでしょ・・楽だよ、きっと」
「でも、こういう生活見ちゃうと、したいなぁーって思っちゃいます」
「うーん そうかぁ、でも、いつでも私のところなら泊まりにきてもいいよ、家の人が良いっていうなら・・」
「ほんとうですか・・泊めてくださいね」
「うん、いいよ」
うれしそうな顔で話をしながらおでんを食べている二人を見ながら、おでんのせいかもしれなかったけど、ほんとに体が暖まってきていた。
話は途切れなかったのに、出来上がった時は鍋いっぱいのおでんが、どんどんと夕子と直美と俺のお腹のなかにだった。

「おなかいっぱいでーす。ごちそうさまでーす」
顔にうっすら汗までかいていそうな夕子だった。
「食べたねー 残っちゃうかと思ったけど・・あっ、劉、残り全部食べちゃってよ・・」
「いくらなんでも もう 俺も無理・・ご馳走様でした」
「そっかぁ じゃ いいや、ごちそうさまー」
「私、片付けます・・」
言いながら夕子は立ち上がって食器を手にだった。
「いいって、少し休んでからで・・」
「やっちゃいますから、直美さんは座っていいですから・・」
「いいって、手伝うから・・」
「大丈夫ですって、洗物って嫌いじゃないですから・・」
作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生