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ひとつの桜の花ひとつ

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高校生と3人で


「叔父さんがいて、びっくりしちゃった」
「うん、あそこで会ったのって俺も初めてだから・・めったに来ないみたいだし、こっちには」
「姪っ子って言ってたよ、私のこと、なんだろう・・店長さんまで」
「うーん、それは 後で説明するわ」
やっぱり直美も少し不思議な感じだったらしかった。
「ゴメンね、待たせちゃって、元気そうだね、足大丈夫そうだね」
会社を出て、久しぶりの夕子に話しかけていた。紺色のダッフルコートが似合って、あいかわらずかわいい顔をしていた。
「お久しぶりです、なんだか、背広でびっくりしちゃいました」
「あっー そうだねー めんどくさいんだけどね・・」
「ネクタイもお似合いですよ」
「いいよ、そんな事言わなくっても・・さ、ご飯食べるんでしょ、なに食べようか、直美はどこがいい」
夕子がいたから手はつないでなかったけど左側にくっついて歩いている直美に聞いていた。
「どうしようねー 昨日お肉食べちゃったし・・夕子ちゃんは何がいいの・・食べたいものか行きたいお店ってあるの・・」
「あのう、嫌じゃなかったら、家でお鍋なんか食べませんか・・」
「わたしんとこ・・それ・・」
「あっ 柏倉さんの部屋でももちろんいいんですけど・・」
「いいけど・・遅くなっちゃうけど、これからだと・・いいの・・」
「はぃ、大丈夫です、直美さんのところに行ってくるっておかーさんに言ってきたし・・」
「そう、わたしはいいけど・・劉もいいよね」
まだ、6時前だったし、買い物をしてご飯作っても、そんなに遅くもならないかなーって考えていた。
「いいよー 鍋でも焼肉でも、夕子ちゃんが食べたいのでいいや、でも、俺は手伝わないから、直美と一緒に作ってね」
「はぃ、それはもう、けっこうできますよ、わたしだって」
「じゃぁ、そうしようか」
夕子と直美の顔を見ながらだった。
「ご飯をみんなで食べる時はいつも劉の部屋でだからね、いいよね劉んとこで・・」
宴会はいつも5階の部屋でだった。
「はぃ」
「大きな鍋とか、卓上コンロとかは劉の部屋にあるから」
「はぃ、すいません、わがままで」
「そのかわり、一緒につくろうね」
「はい、大丈夫です」
夕子がうれしそうに返事をかえしていた。
「じゃぁ 電車に乗って帰りますか・・」
うなずいた2人と並んで下北沢の駅に向かって歩いていた。

下りの各駅停車の電車で10分かからずに豪徳寺の駅に着いていた。
「直美さん、わたし、この駅初めて降ります」
「そうなんだ、いいとこよ夕子ちゃん、ここからまだ歩くからね、家までは・・」
駅を出ると直美と夕子が仲よさそうに話していた。
「はい、なんか楽しいですね」
「そうね、で、鍋でいいの・・なに鍋にしようか・・材料買ってかえらなきゃ」
「あのう、電車に乗ってて思ったんですけど、おでん にしようかなぁって・・」
「うん、いいよー、じゃぁそうしよう」
「柏倉さんもそれでいいんですかね・・」
「うん、大丈夫よ、いいよね、劉も」
前を歩いていた直美と夕子が振り返っていた。
「いいよ、俺も、 おでんで」
「はぃ ではそうしまーす」
寒そうな顔だったけど、うれしそうな夕子の声が道路に響いていた。
「おでん だったら八百屋さんと、あの店でいいね、劉・・」
「そうだねー おいしいからね、鈴谷商店でしょ」
鈴谷商店はお魚屋さんなだけど、自家製のおでん種も隣にくっついた小さな店で年中売っている人気のある店だった。
「おいしいお店あるのよ、夕子ちゃん・・」
「へー そうなんだぁ・・」
「うん、もう少し歩いたところの左側ね」
「おでんって 何が好きですかぁ、直美さんは・・」
「大根も 巾着も、がんもも、こんにゃくも 玉子も、えーっと、海老巻きも、それから、厚揚げも」
「それって、なんでもですかね・・」
夕子に直美が笑われていた。
「違うわよー ちくわぶと はんぺんは そんなに好きじゃないもん」
笑いながら直美も言い返していた。
それを聞きながら後ろから、俺も笑っていた。
「ほら、ここね、ここが鈴谷商店ね・・こんばんわー さ、夕子ちゃん好きなの言ってね」
お店のおばちゃんに挨拶しながら夕子と一緒にショーウインドーをうれしそうに直美が覗き込んでいた。
「はぃ うわぁー いっぱいおいしそうな揚げ物とかがあるんですねー」
「おいしいのよー 劉はなにがいいの・・」
「俺は、海老巻きとタコ・・あとは任せるから」
「夕子ちゃんは・・」
「もう 悩んじゃうから直美さんに任せます」
「じゃぁ、任せてね」
返事をすると、直美は、てきぱきと少しずついろんなものを注文して、お金を払って、商品を受け取っていた。
「買いすぎちゃったかなぁ・・夕子ちゃんいっぱい食べてよねー」
「はぃ がんばります」
頑張りますって声を聞いたけど、それに期待しなきゃいけなさそうな量だった。

それから、大根とこんにゃくも買って、マンションの玄関にたどり着くと時間は6時半を少し過ぎていた。直美と夕子は歩きながらずーっと楽しそうに話をしていた。
「ここだからね、夕子ちゃん・・遠くてゴメンね」
「大丈夫です」
「でね、さっき曲がった交差点あったでしょ、あそこで劉が車にはねられたのよ」
「えっ そんな近くだったんだ・・」
「あそこのそばに夏樹の家あって、夏樹が事故見に行ったら、劉が倒れてて、それでわたしの所に呼びに来たってわけ」
「そうだったんだー 」
「夏樹は沖縄に帰ってるんだよねー いれば良かったね」
「うーん 残念」
「さ、5階だから」
エレベーターに3人で乗り込んで俺の部屋に向かっていた。

「さ、どうぞ」
部屋の鍵をまわして、ドアを押さえて、直美と夕子を先にだった。
「おじゃましまーす」
「いいから どうぞ・・」
電気をつけながらの直美の後に夕子が続いて、最後に俺が買い物袋を提げてだった。
「俺、着替えちゃうから・・」
言いながらベッドの部屋に入って、背広からスエットに着替えていた。
めんどくさいけど、綺麗に背広とズボンをかけてしまっていた。
大きな部屋のほうに戻ると、もう、直美も夕子ちゃんも台所に立っていた。
「なんか 手伝おうかぁ・・」
「いいよー 劉は座ってて、あっ、でも わたしも着替えちゃおうかなぁ。・・夕子ちゃん大根切っといて、すぐ戻るから」
「はぃ、大丈夫です、あっー 柏倉さん、それだと、見慣れた格好で落ち着きます」
入院してた時によく来ていたスエット上下姿を見て笑いながら言われていた。
「夕子もパジャマにでも、着替えるか・・」
「あっー ひどいなぁ・・パジャマなんか持ってきてるわけないじゃないですか・・」
ふくれっつらをされていた。
「わたしのだったら、貸してあげるわよー」
直美が隣の部屋のドアを少し開けて、大きな声で夕子にだった。
「もう、直美さんまで・・」
「ほら、洗濯してあるし・・かわいいでしょ」
本当に手にパジャマを持って部屋から出てきていた。
「いいですって・・もう・・」
包丁を小さく上に上げながらだった。
「夕子ちゃん、泊まっちゃえばいいのに・・家の人ってうるさいかなぁ・・」
「うーん、どうだろう・・」
「電話してみる・・ダメもとで・・」
作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生