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ひとつの桜の花ひとつ

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お昼話


「まだ、お昼行ってないんでしょ、柏倉君先に行ってくれるかな・・」
やっと1時を少しまわって店長の高田さんが本社から戻って来ていた。
「石島さん先でもいいですけど・・」
先に出ちゃうと、石島さんの休憩が2時過ぎになりそうだったので、気を使ってだった。
「あっ、石島も行っちゃっていいわー 大丈夫だから、今のうちに行っちゃってくれるかな・・」
本社から笑顔で戻ってきたから機嫌がよさそうな店長だった。
「いいんですかー 行っちゃいますよ わたし・・」
もう、椅子から立ち上がりながら石島さんだった。
「うん、いいわー 一緒に行っちゃってくれる」
「はい、じゃぁ 行こうか、柏倉君」
笑顔で石島さんに言われていた。
「では いただきます」
席を立ちながら返事をしていた。
「うん、時間どおりでいいからね」
「はい」
うなづくと、入り口に向かっていた石島さんに続いて外にだった。

「柏倉君って、どこでよく食べてるの・・」
「ばらばらですけど、おなか空いてる時はですね、キッチン南海ですね。でも狭いんですよねー あそこは」
「カウウンター席が5個ぐらいでしょ。あそこって」
「たぶん6人かも・・」
小さい店だったけどボリュームあって値段も手ごろでお気に入りの店だったけど、女の人には店で会ったことがなかった。
「あっ 朝のお客さんのところ行こうかぁ・・」
「だから、高いですってば・・」
「いいよ、おごってあげるわよ」
「えっー いいですよー」
あんまり、おごってもらうのって好きじゃなかった。
「いいからいいから、さ、こっちだっけ・・」
なんだか、思ったより早足で店の方向に向かっていく石島さんの後ろを歩いていた。
「ランチってありますかね・・」
追いかけながら、後ろから声をかけていた。
「あるでしょ、きっと、あそこの角曲がったとこだよね」
「はい、そうですね」
「ケーキ大きいところだよねー あの店って」
「はい、大きいですよ、アメリカンサイズなのかなぁ・・」
口にしたけど、アメリカンサイズってなんだろうって思っていた。
「店長って 帰ってきたらすごく機嫌よかったよね・・」
「なんか、何回か椅子に座って笑ってましたけど」
帰ってきてから、書類を眺めてはにっこりして、うれしそうだった。
「なんか、いいことあったんじゃないのかなぁ、本社で」
「上司にでも褒められて帰ってきたんですかね」
「そうかもね、けっこう順調だもん、お店ここに開けてから・・」
「そうなんですか」
「成績いいから、支店でも、だすのかなぁ・・」
「へー そんな話あるんですか」
「柏倉君のほうが詳しいんじゃないの、ほんとは。 叔父さんなんだから、社長が」
「全然、知らないですよ。もう2週間ぐらい会ってないし、仕事の話なんかしたこと無いですから・・」
「そうなんだぁー でも、店長が柏倉君が社長の甥っ子って知らないかと思うと、昨日から笑えてさー」
「笑わなくても・・」
「だってさー おもしろいんだもん」
うれしそうに振り返って笑っていた。

「座れそうだね・・」
お店の自動ドアが開くとにっこり笑顔の店員さんに迎えられていた。
「はぃ、時間が少し遅いからですかね」
「そうねー あ、朝の子いたわよ、あそこに」
「えっ」
言われたほうを見たけど制服で雰囲気が違っていて、ピンと来なかった。
「いらっしゃいませ、来てくれたんですね、お席ご案内します」
目が合ったらすぐに小走りで近付いて来て、石島さんと俺に頭を下げながら挨拶をしてくれていた。
「いい子だよね、かわいいし」
席に案内されながら 小さい声で俺にだった。
「こちらでいいですか・・」
「うん、ありがとう」
石島さんの声にあわせて頭を下げていた。
「お勧めあるかしら・・」
「今日はランチでこのハンバーグセットがありますけど、おいしいですよ」
「じゃぁ わたしはそれで、柏倉君は、どうする・・」
「俺もそれがいいや、それで」
出されたメニューにはおいしそうなハンバーグの写真が写っていた。
「ご飯でいいですか」
「うん、柏倉君もご飯でいいんでしょ・・」
「はい、ご飯でお願いします」
「かしこまりました。ごゆっくりしてってください、来てもらってうれしいです」
笑顔で石島さんと俺の顔を見て頭を下げてオーダーを通しに席を離れながらだった。
「かわいいね制服姿も、黒川さんだっけ、忘れちゃったから今、名札見ちゃった」
「今度3年生って言ったから石島さんより一つ下ですかね」
「じゃぁ 柏倉君の一つ上ね」
「そうですね」
「ふーん、そっかぁ、かわいい顔してしっかりしてたなぁ 家賃交渉だもんね」
「けっこう、あせっちゃいました」
「柏倉君って落ち着いて見えたけど、こっちこそ頭痛かったけど、いい大家さんで良かった」
「良かったですよね 家にいてくれて」
「そうねー あっ 昨日会社に来た子って彼女なんでしょ」
「そうですけど・・」
「明るくていい子だったね、バイト先を見にきたんだよ、きっと・・」
「そうかなぁ・・」
「そうよー バイト先に変な女いないかなぁーって、ね」
「それは ないと思いますけど・・叔父さんの会社だって知ってるし」
性格的にそんなタイプではなかったから、考えたこともなかったことだった。
「そうかなぁー 心配とかしないの・・」
「うーん 考えたことないからわかんないです」
「なんか わたし達のこと言ってた・・」
「いい人で、親切にしてくれたって言ってましたけど」
「ふーん、余裕だなぁ・・あっ 社長とかにも会ってるわけ、彼女って・・」
「叔父さんところには よく遊びに行くから・・」
「へー そうなんだぁ 公認かぁ・・」
「叔父だから、公認って言っても・・少し違うかもですよ、それって・・」
「だって、一緒に家にも行ってるんでしょ・・」
「1人でもたまに行ってるみたいだけど・・叔母と仲いいし」
「そうなんだー 社長の家さえどこだか知らないや、わたし・・しゃべった事もあんまりなかったし・・本社からこっちの店に移ってから少ししゃべっただけだぁ」
「しゃべりだすと 止まらないから 大変ですよ。声でかいし」
「それ、少し返事に困る」
首を振りながら石島さんは笑いを抑えていた。
「柏倉君が卒業してうちの会社に入って偉くなったら 贔屓してよねー」
「だから 入らないですってば」
「やっぱり 店長も主任も知らないかと思うと 笑えるー」
「どうかなぁー」
「だってさ、へたすりゃ 次期社長候補でしょ・・」
うれしそうだった。
「あのうーたぶん 期待には応えられないと思いますけど、ただのアルバイトですから」
「もったいないなぁ、大きな会社なのに、ま、気が変わることもあるから・・忘れないでよね、私のこと・・」
ちょっと ため息をかくれてついていた。
「お待たせしましたー」
「おいしそうー」
運んできたのも黒川さんだった。
石島さんも声を出していたけど、ほんとにおいしそうなハンバーグが目の前にだった。
「ごゆっくりしてってくださいね、柏倉君のはご飯大盛りにしときましたから」
「あっ すいません」
「いいえ、お世話になりましたから、どうぞ、では」
軽く会釈して、いそがしそうに戻っていきながらだった。
作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生