ひとつの桜の花ひとつ
「そうですか、では えっと、今、契約書持ってきますね。それと少しだけ預かり金でかまいませんので、入れてもらっても良いですか・・」
「お金は 払っちゃいます、用意してきたんで・・いいですよね」
「はい 助かります。では、契約書持ってきますから・・」
振り向くと、昨日から用意されていたのか、金額のところだけを打ち直した、書類を石島さんが手際よく差し出してくれた。一緒にお金の計算した紙も一緒にだった。
「これは、ここに保証人さんのお名前と印鑑がいるので、出来上がったらお持ちいただいてもらっていいですか・・」
「はい」
「で、これが、全額の金額ですけど、よろしいですか」
「はい、いま、出しますから」
カバンの中から封筒を出してお札を器用に数えていた。
「ちょうどだと思います」
「お預かりしますね」
お札を数えるとぴったりだったから、後ろの石島さんに渡して、引き換えに領収書を受け取っていた。
「では、これが領収書ですね」
「はい、鍵っていつなら受け取れますか・・」
「水曜日以降ならいつでも どうぞ」
「じゃ、水曜日以降に来ますね」
「はい、なんかあったら電話ください。契約書も引越しまでにお願いしますね。時間あんまりないですけど・・」
「はい、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
「あっ わたし、この先のストロベリーファームでバイトしてるから良かったら食べに来てくださいね、えっと柏倉くんだったっけ・・」
「えっ あ、そうなんですか・・」
名前を言われてちょっとびっくりしていた。
「今日もこれからバイトなんで」
「はい がんばってください」
「では、ありがとうございました、失礼しまーす」
小さなカバンを横に抱えて笑顔だった。
「ストロベリーファームかぁ・・お昼に行ってあげれば、柏倉君」
「えっー 高いですよあそこって」
「ランチなかったっけ」
「良く知らないけど」
たぶん¥1000ぐらいしそうな気がしていた、まったくの想像だったけど。
「なんか 柏倉君のこと気に入ってるんじゃないの、契約もすんなりだったし・・いい子そうだよ、あっ ゴメン昨日の子が彼女なんだよね」
「そうですよ、まったく・・」
「うーん、どっちもかわいいなぁ・・ま、いいや、契約とれたしね・・わたしお昼にお店行ってみようかなぁ・・」
「行ってくださいよー けっこうお店の男の人ってあそこ、格好良いですよ」
「あっー 彼氏いないからって・・」
「えっ いないんですか、知らなかったぁ」
「うわぁー 余計な事言ったぁ・・」
窓際に立って、外を眺めながら石島さんの声が後ろから聞こえていた。
陽射しがここは暖かくて気持ちよかった。
作品名:ひとつの桜の花ひとつ 作家名:森脇劉生