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名誉毀損の認定方法

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議論の前提として―名誉毀損の認定方法―
名誉棄損の成立要件
 下記にみるプロバイダーの責任は、そもそも、名誉棄損発言が掲示板上に書き込まれたことを発端に問題となるため、まずもって掲示板上でなされた発言が名誉棄損を構成することが前提となる。そこで、議論の前提として、いかなる場合にある者の発言が名誉棄損を構成するのか、名誉棄損の成立要件を整理しておく。
 名誉の侵害が不法行為を成立させることは規定上明らかである。ここで、扱う名誉とは、「人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉」のことであり、「人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情」の事ではない。もっとも、次に挙げる4つの要件があれば、不法行為の成立が否定される。(7)
ⅰ名誉毀損とされる表現が、「公共の利害に関する」場合
公共の利害の要件の具体的内容は必ずしも明確化されてないが、その判断にあたって、①「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」をⅰの事実にあたるとみなす旨、及び、②公務員または公選による公務員の候補者に関する事実について真実の証明があったときは罰しない旨、を定めた刑法の規定(230条の2第2項・第3項)を参考として、特段の事情がないかぎり、公共の利害に関する事実として判断している。
ⅱ右行為が「もっぱら公益を図る目的に出た場合」
この「公益」の要件に関しても、一般的基準が明確に述べられることはないが、判例準則には、「表現方法や事実調査の程度」がまず判断の資料に供されるべきである。次いで、執筆態度が真摯なものであったかどうか、「画された動機が私怨を晴らすためとか私利私欲を追求するためであったかどうか」等を総合的に評価して判断すべきである。
ⅲ「適示された事実が真実であることが証明された」場合
これは、適示した事実の「重要な部分」が真実であれば足りるというのが判例であり、有力説であるが、何が「重要な部分」であるかについての基準はない。
ⅳ「右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由がある」場合(8)
この要件については、「報道内容が十分に推定できる程度の確実な資料を数量及び質の両面において収集することが必要であ」るとしている。これは、相当の理由基準として確立している。これは公共の利害に関係する言論に対する萎縮効果を除去する為に、名誉の側にある程度の犠牲を求めるものである。
従来の判例では、新聞社などのマスメディアで取り上げられることが多く、少なくとも、ここで検討対象にしている掲示板は想定されていなかったが、インターネット上でもこの理論を適用する事は可能である。
もっとも、いわゆる私的な掲示板では、ⅰの要件はそこまで問題にならない。何故なら、私的な掲示板では利用者が限られ、公の場として成り立っていないためである。また、ⅱについても、公共の利害に関する場合の特例についての条文の文言であり、ⅰ同様公の場での議論には使えない。しかし、公の場を要件としないⅲは、「重要な部分」について争われる可能性がある。ⅳについても、問題にならない。これもまた、公共の利害に関する要件である。
 名誉毀損が争われた例として、下記にみるニフティサーブ第一事件(9)と、ニフティサーブ第二事件(10)を挙げる。
ニフティサーブ第二事件では、原告Xは、平成7年10月、パソコン通信サービス提供などを業とする被告Y(ニフティサーブ)と会員契約を締結し、Yからパソコン通信サービスの提供を受けていた。ところが、Yの他の会員Aが、原告Xが被害妄想を持っている、学歴を詐称しているなどの名誉棄損および侮辱の書き込みをした。そこで、原告Xは、被告Yが会員Aの氏名、住所を隠匿したことと、書き込みに対して適切な措置をとらなかったとして慰謝料と、会員Aの氏名および住所を開示するように求めた。これについて裁判所は、「パソコン通信上の発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては、発言内容の具体的な吟味とともに、当該発言された経緯、前後の文脈、被害者からの反論をも併せ考慮した上で、パソコン通信に参加している一般の読者を基準として、当該発言が、人の社会的評価を低下させる危険性を有するか否か、対抗言論として違法性が阻却されるか否かを検討すべきである」として一部の発言を違法性阻却されるものとし、また、一部の発言については、Aの用いたハンドルネームがXの実名を示唆するものとは認められず不法行為を構成しないと判示した。
ニフティサーブ第一事件では、Y1の書き込みは名誉棄損とされたが、それらの発言は、ⅰⅱⅲⅳの要件の成否について争われているわけではない。この点は、ニフティサーブ第二事件も同様である。
ニフティサーブ第一事件においては、被害者の匿名性が確保されていなかった点が問題になっている。名誉毀損があったというためには人格的価値の社会的承認あるいは社会的評価が低下することを必要とするが、ネットではハンドル名を用いたやりとりであるため、名誉が毀損されたといえないのではないかということも問題とされた。ハンドル名による活動が不利益を受けるという点からこれを保護する必要性と限界について指摘する見解がある。(11)また、問題点としては、名誉棄損と認定された発言が明らかに名誉毀損を構成すると言えるのかどうか、疑問が残る。
ニフティーブ第二事件では、下記にみる対抗言論の法理によって名誉棄損が成立しないとして、名誉棄損の成否が争われた。このように、掲示板での名誉棄損問題はそれ自身の成立を問題としているよりかは、対抗言論の法理によって名誉棄損の成否が争われることの方が多い。
作品名:名誉毀損の認定方法 作家名:浅日一