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陰陽戦記TAKERU 後編

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 その頃……
『……さて、準備は整った』
 あの廃工場の地下深くには広い空洞があった。
 ざっと体育館三つ分繋いだようなその空間は饕餮が作り上げた物だった。
 そしてその中には人間くらいの大きさはあろう黒い卵のような物体がひしめき合っていた。
『いよいよ始まるぞ、この世から光は失われ闇に包まれるのだ!』
 饕餮が大きく笑いだすと黒い物体に亀裂が生じて僅かに砕けるとその隙間から不気味な光が輝いた。
 
 地上は今、夜だった。
 このまま何事も無ければ良いと思ったがそうも行かなかった。
『武、四凶の気配だ!』
 麒麟の言葉に俺は拓朗と香穂ちゃんに連絡を入れた。
 様子を見に来てくれた加奈葉と学に美和さんを任せると俺は鬼斬り丸を持って家を飛び出した。

 今回奴が出たのは商店街だった。
 途中拓朗と香穂ちゃんと合流して商店街にたどり着くと八百屋の屋根の上で饕餮が俺達を見下ろしていた。
『来たか』
「ああ、テメェが出たとなれば何が何でも出てきてやるよ!」
『あの娘の記憶を奪った事か? フン、奪う価値も無かったがな……』
「んだと?」
『こっちの話だ。だがお前達はこの場で消えてもらう!』
 饕餮が目を見開くとその時だ。
 周囲の建物の扉が一斉に開いて中からこの商店街に住む人達が包丁や箒や傘などを持って俺達を取り囲んだ。八百屋のおっちゃんや自転車屋の兄ちゃん、本屋の婆ちゃんまで…… 見慣れた人や馴染みの人達が俺達の道を塞いだ。
「な、何なのよ?」
『彼等は鬼に取り憑かれている、奴の仕業だ!』
 白虎が言う、どうやらそうらしいな……
『その通りだ。貴様達は自分の町の人間に刃を振るえるのか?』
「テメェ……」
『やれぃ!』
 饕餮が命じると町の人達は俺達に向かって襲い掛かった。
「2人供、伏せろ!」
 俺は鬼斬り丸に青龍と朱雀の力を上乗せすると大きく刃を振るった。
「うりゃあああっ!」
 俺の回転切りが炸裂すると人々はその場に倒れて体から黒い陰の気が抜け出た。
「今だ!」
 俺が合図すると香穂ちゃんは拓朗は変身して一斉に攻撃を放った。
「はああっ!」
「たりゃあ!」
 冷気と斬撃が饕餮に向かって放たれるが2人の攻撃は饕餮をすり抜けた。
「何っ?」
 これには俺達も驚いた。
 しかしさらに驚くべき事に饕餮の体毛が逆立つと矢のように放たれた。
「うおっ?」
 俺達は後ろに飛んで交わした。
『ヌンッ!』
 饕餮が目を見開くと突然紫色の怪光が放たれて周囲にあった自転車やバイクがフワリと浮かび上がり俺達目掛けて落ちてきた。
「うわああっ?」
「野郎…… って」
 俺はさっきの攻撃に見覚えがあった。
 攻撃の無効化、体毛の飛針、そして鉄を使った攻撃……
「テメェ、他の魔獣の力を?」
 俺は饕餮に向かって叫ぶ、
 すると奴は口を端を上げて笑った。
『その通り、我は貴様達が倒した魔獣達の力を手に入れたのだ!』
 饕餮は語った。
『我々魔獣は不死身だ。陰の気がある限り何度でも蘇る、しかしそれには強力で莫大な陰の気が必要だ。しかし一々奴等を復活させるより我1人が力を持った方が効率が良い』
 魔獣達は倒されていても意識はあった。
 だが饕餮はそれを食らって自分の中に取り込んで物にしたと言う、
「要するに自分の仲間を利用したって事か?」
『仲間?』
 饕餮は眉を細めるとやがて大きく笑った。
『莫迦者が、本来我々には仲間などと言う物は無い、我の目的は暗黒の復活だ! それ以外は興味は無い!』
「んだと?」
『何を驚いている? それは人間だって同じだろうが』
「違う! 人間を魔獣と同じにするな!」
 横で拓朗が叫ぶ、
『違わんな、我々も元々は人間だったのだ!』
「何だって?」
 俺は驚いた。こいつらが元々人間?
『我々4人は元々王家の血を引く兄弟だった。そして父である王の命令で人間達を守っていた。しかし人間はどうだ? 人間は自分が危機に立たされている時は救いを求めるものだがそれ以外は力を持つ者に怯えるものだ!』
 俺はその言葉に美和さんの言葉を思い出した。
 美和さんが生まれたばかりの村の連中も美和さんを殺そうとした。
『分かったか? そんな奴等に守る価値があると思うか?』
「それは……」
 俺は下を向いて口を紡いだ。
 俺も美和さんの過去を知った時に美和さんの村の人間を憎んだ。
『分かったようだな、人間は守る価値など無い、所詮家畜以下の存在だ』
「うるせぇ!」
 俺は腹の底から叫んだ。
「それ以上汚ねぇ口を広げんじゃねぇよ、テメェのくだらねぇ御託なんざ知った事じゃねぇんだよ!」
 俺もこいつと同類なのかも知れない、
 だけど少なくともこいつに言われると腹の虫が納まらない!
『フン、所詮は開き直り、貴様もただの人間って事か……』
「この……」
『武の言うとおりだ!』
 すると俺のポケットから麒麟が出てきて実体化した。
『確かに人間の中には自分勝手で救う価値もない奴はいる、だが例え少なくとも…… 力無くとも懸命に生き、おのれの心の闇と戦おうとしている者達も必ずいるんだ!』
 麒麟が言うと饕餮は鼻で笑った。
『奇麗事だな、貴様達は人間とやらが分からんようだな?』
『分かるさ、俺達だって人間だったんだ!』
「なっ?」
 それも初耳だった。
 するとそれを察したのか麒麟が俺の方を見て説明した。
 麒麟や他の聖獣達は元々大陸に住む神官だった。
 そして自然の力を宝玉に集めて妖や魑魅魍魎と戦ったと言う、
 しかしその度に疎まれ蔑まれ怯える人々も確かにいたらしく、時には絶望したり嫌気がさした事も確かにあったと言う、
『だがな…… それで守れた物もあるって事さ、武』
 ある日麒麟は1人の少女が身を呈して1輪の花を妖から庇った所を見てその時に自分が何をするべきか、守る事について何が大事なのかを理解したと言う、
『武、最終的に正しいとか間違ってるとか…… 誰が決めるんだろうな?』
「麒麟……」
 俺が言うと鎧化した玄武や白虎も続いた。
『そうだよ。一々考えてたんじゃ身が持たないよ』
『我々は守りたいから守っただけに過ぎん…… ま、その結果今の姿になった訳だがな……』
 ある日、強力な妖が現れた。
 麒麟(当時神官)達は死にもぐるいで戦ったが力及ばず、ついに最後の手段に出たと言う、
 それは自らの魂を宝玉と融合させ自分を自然の力その物化す事だった。
 二度と人には戻れないがその結果妖を倒す事に成功し、それ以降麒麟達は聖獣と呼ばれるようになったと言う、
『俺は後悔なんかしない…… 武、良い奴か悪い奴かなんて後で考えればいい、とりあえずは助けてからだ!』
「だな」
 すると麒麟が光り輝くと鬼斬り丸と供に粒子化すると俺に纏わりついて鎧になった。
 忘れてたぜ、俺が戦ってるのは感謝されてぇとかそんな物じゃない、単に俺がそうしたいって思ったからだ。深い意味は無い!
「とっととぶった斬って美和さん元に戻そうぜ、あの美和さんも良いけど…… 俺やっぱいつもの美和さんの方が良いや」
『そうだな、あのままじゃ朱雀が大変だ』
「んじゃ行こうぜ!」
 俺が両腕を鳴らすと香穂ちゃんと拓朗が横に着いた。