陰陽戦記TAKERU 後編
俺はそろそろ限界だった。
俺の法力は残り少ない、自分でも分かってる。
美和さんはまだ大丈夫そうだけど俺が居なくなったら美和さん1人じゃやられる。
『そのまま潰れろぉーーッ!』
檮杌の磁力光線がさらに巨大になった。
「まずい…… このままじゃ!」
何とかしなきゃいけない、そう思った矢先、俺達の後ろから巨大な氷柱が檮杌に向かって放たれた。
『チィ!』
檮杌は磁力光線を出すのを止めると氷柱を両手の鉤爪で打ち砕いた。
『テメェ……』
俺達も檮杌も後を見る、
そこに立っていたのはもちろん拓朗、しかしいつもと不意息が違った。
「いくよ、玄武!」
『承知!』
拓朗は玄武の宝玉を空高く掲げると宝玉が黒い輝きを放って拓朗の体に纏わり付くと拓朗の姿が変わった。
黒い亀甲型のショルダー付きの鎧と垂、鱗状の二の腕に肘から下が亀甲型の篭手、股部分が鱗状で膝から下の脛部分が亀甲型の足甲、そして黒い亀の頭を模した兜を被っていた。
「拓朗、お前まで……」
香穂ちゃんに続いて拓朗までもが変身、一体どうやって?
「ここは僕に任せてください!」
拓朗は俺達の前に経つと片膝を曲げてアスファルトに右手を叩き付ける、
するとアスファルトが砕け散ってその中から先端が蛇の頭になった狼牙棒みたいな武器が出現、拓朗はそれを手に取って身構えた。
『チィ! 舐めるなーッ!』
檮杌の目から紫色の雷撃のような光線が放たれた。
「2人供伏せて!」
拓朗が言うと俺達の前にバレーボールくらいの黒い六角形の亀甲型の物体がいくつも出現、ドーム状のバリアになって檮杌の攻撃から俺達を守った。
『グッ、おのれ!』
すると檮杌が今度は口から磁力光線を発射、しかし再び拓朗のバリアが攻撃を防ぐ、攻撃が終わった瞬間バリアは砕け散る。
「すげぇ防御力だ」
拓朗のバリアは相手が攻撃している間は全ての攻撃を無効化してくれる、
俺と美和さん2人がかりでやっと相殺していた光線を拓朗1人で防いでしまう、その圧倒的な防御力に正直脱帽だった。
「よし、このまま畳み掛けるぞ!」
「待って下さい!」
すると武器を構えた俺達を拓朗が止めた。
「こいつは僕が倒します」
「だけど拓朗、1人じゃ……」
しかし拓朗が俺に振り返るとその瞳には強い怒りの炎が灯っていた。
その気迫に俺は動く事が出来なかった。
「檮杌、お前だけは僕が倒す!」
拓朗が武器を構える檮杌は拓朗に向かって顔を歪めた。
『黙りやがれ小僧が!』
檮杌が走り出すと同時に拓朗も突進した。
聖獣の武器と魔獣の爪がぶつかり合い火花を散らした。
拓朗は魔獣相手に一向に引く気配がなかった。
「……あんな拓朗、始めて見た」
「って言うか、拓朗さんあんなに強かったの?」
香穂ちゃんが疑問を抱くのも無理は無い、確かに拓朗は格闘技も武術もやってない、戦闘に限っちゃ俺と同じで素人だ。
しかし今までの戦いを経て拓朗の戦闘スキルは上がっている、決して弱い訳じゃない、
だが俺にとっては拓朗が怒る事の方が信じられなかった。今まで許せないと思った事はあっただろうがあんな感情的になる事は無かった。
あの犬が関係してるのは間違いない、怯えて泣いていた犬を利用されていたのが拓朗の逆鱗に触れたんだろう、
全ての命を同列と思っている大地の優しさが地震や地割れの様な怒りに変化したんだろう、本当に優しい奴だぜ。
『ガアアアッ!』
檮杌が両腕を振るって拓朗に切りかかる、
「はああっ!」
拓朗は狼牙棒の柄で敵の攻撃を受け止めると腹に蹴りを入れた。
『グオオッ!』
体を曲げた檮杌が地面に横転すると拓朗は最後の勝負に出た。
狼牙棒に冷気が渦を巻いて集まった。
「これで終わりだぁー―ッ!」
最後の攻撃が放たれ、唐竹から思い切り叩きつけると冷気を帯びた棘が檮杌の体を砕いた。
『ま、負けるのかっ? こんなガキより…… 俺の方が弱いとでも言うのか?』
檮杌は信じられなさそうに目を見開くと拓朗をにらみつけた。
『があああああッ!』
檮杌は大きく天に向かって叫ぶとゆっくり倒れると轟音を轟かせて爆発した。
「やったな、拓朗!」
俺達が近寄る、すると拓朗の側にあの犬がやって来た。
「もう大丈夫、怖い奴はいなくなったからな」
「くぅぅ~ん……」
犬は拓朗のズボンに鼻を摺り寄せると拓朗は頭を優しく撫でた。
作品名:陰陽戦記TAKERU 後編 作家名:kazuyuki