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陰陽戦記TAKERU 後編

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 俺達が駆けつけるとそこは車のスクラップ工場で廃棄される車が集められた場所にそいつはいた。
 後ろ姿だが俺達の気配に気付いて振り向いた。
『グルルル……』
 それはまさに犬の鬼だった。
 牛くらいはあるだろう、完全な2足歩行、剥き出しの鼻と口と耳以外青白い光沢を放つ眉間から後頭部に回るように棘が生えた兜を被り、巨大な4本の鉤爪の付いた手甲に棘付きのショルダーの付いた胸当てを装着していた。
 そしてその胸当ての中央には四凶の1人の顔があった。
「やっぱりテメェだったか!」
 胸当ての檮杌が口の端を上げて一笑する。
『やっと来たか、もう少し遅ければここにあるガラクタを町中にばら撒いてやる所だったぞ!』
「そんな事しなくたって俺達は戦う!」
『ハッ、相変わらず威勢だけは良いな!』
 やっぱりあの犬か……
『さぁ始めようぜ、この俺こそが最強だって事を教えてやる!』
 犬の鬼が大口を開けると紫の怪光線が発射された。
 それは檮杌の磁力破壊光線で俺達は左右に飛んで交わすと俺の後ろに殺気が過ぎる、
「何っ?」
 後ろにはいつの間にか檮杌がいた。
 そして鋭い鉤爪を俺に向かって振り下ろした。
「ぐわっ!」
 俺はとっさに体制を変えたが俺の制服と下のYシャツが切り裂かれて胸に3本に切り傷がつけられた。
『ほう、多少は腕を上げたみたいだな。』
 檮杌は後ろに飛んでにやりと笑う、だけど俺は正直に笑えなかった。
 あと少し反応が遅ければ完全にやられてた。
『やっと俺様は最強の体を手に入れた。こいつの憎しみがあれば全てを破壊できるぜ!』
「憎しみ?」
『ハッ、そりゃ分からねぇのか? こいつが人間を憎んでるのは人間のせいだって事をよぉ!』
 檮杌は語った。佐伯動物病院にいた犬(今の鬼)は元々飼い犬だった。
 しかし飼い主はとても身勝手な奴で最初は可愛がっていたがやがて犬に飽きて山の中に捨てられた。
その後捨て犬として悲惨な生活を送ってきた。
 何とか町中まで降りてきた物の、ゴミ箱を漁り人間に追われ、そして数日前に学生達に鉄パイプなどで傷つけられて死にかけた。
『憎まれて当然だよなぁ、人間が酷ぇ事したんだからなぁ!』
「に、人間全てが悪い訳じゃねぇ!」
『ハッ、言い訳だな。まぁ俺にはどうでもいい事だがなぁ!』
 こいつ本人は戦い以外興味がないみたいだ。
 あの犬の怨恨を利用してるだけに過ぎない、挑発がバレバレだ。
『さぁ、窮奇を倒したって言うテメェ等の力を見せてみろ!』
 俺が倒したんじゃねぇ!
 と言いたいがこいつらは話は通用しない、
「……やるしかねぇか!」
 俺は麒麟の宝玉を取り出して鎧化させようとした。
「待って下さい!」
 すると拓朗が俺を止めた。
「僕に任せてください。」
「任せてくれって…… 1人じゃ無理だ!」
 拓朗は今までに無い凄い真剣な顔をして言った。
「さっき言ったはずです、確めたい事があるって……」
 拓朗は玄武を元の宝玉に戻した。
『拓朗、お主……』
「玄武、ちょっと黙ってて」
 そう言うと拓朗は宝玉を足元に置いた。
『どう言うつもりだテメェ?』
「少し聞きたい事がある」
『ハッ、何言ってんだ!』
 すると檮杌は無防備な拓朗に襲い掛かった。
『りゃあっ!』
 檮杌の膝蹴りが拓朗に炸裂した。
「ぐはっ!」
 拓朗はくの字に体を曲げるとそこへ檮杌が掌平で拓朗を弾き飛ばした。
「うああっ!」
 拓朗は吹き飛ばされて車に叩きつけられる、と地面に倒れる。
『カッ! 莫迦が…… 戦わないで勝てると思ったか?』
 檮杌は履き捨てる、
 すると拓朗は片手で腹部を抑えながら起き上がる、
「……くっ、」
 明らかに辛そうだった。
 そりゃそうだ。普通の人間なら膝蹴り一発で即死だろう、宝玉を持ってないとは言え玄武の力が影響してるんだろうけど、檮杌の攻撃をまともに食らったんだからダメージは相当なもんだ。
『……何だ。まだ立ち上がるのか?』
 しかし拓朗はふら付きながらも檮杌に…… いや、どっちかと鬼の方に近づいて行く、
 すると拓朗の行動が癪に障ったのか檮杌は歯を食い縛り眉間に皺を寄せた。
『テメェ、ふざけるなーッ!』
 鬼が巨体を揺らして走り出すと右腕の鉤爪が拓朗の腹に突き刺さった。
「がはっ!」
 その瞬間拓朗は血を吐いた。
 腹からも鬼の爪を伝って真っ赤な鮮血がアスファルトに滴り落ちる。
「拓朗っ!」
 俺はもう我慢の限界だった。
 俺は鬼斬り丸に手をかけた。
「止めてください!」
 すると拓朗は眼光鋭く俺に向かって叫んだ。
「何言ってんだ。このままじゃお前が……」
「……やっぱり…… そうだったんですよ……」
 拓朗は両肩を上下させ息を荒くしながら檮杌を見て目を吊り上げた。
「檮杌、言ったよな…… この鬼は人間を憎んでるって……」
『ああ、テメェ等人間の身勝手な欲望で運命を狂わされたんだ。憎んで当たり前だ!』
「それは違う!」
『んだと?』
 拓朗は恐ろしい形相になった鬼の目を見つめる。
「……この鬼、いや、犬は…… 人間を…… 憎んでなんかない……」
『何っ? 寝ぼけた事を言ってんじゃねぇ!』
「本気だ!」
 拓朗の言葉に檮杌は言葉を失う、
「……この犬は、怯えてるんだ…… 怖くて震えてるだけなんだ!」
 すると拓朗は鬼の顔に手を当てた。
「大丈夫、怖くない…… 人間は…… 怖くないからね」
 拓朗が鬼に言葉をかける、すると檮杌は拓朗をあざ笑った。
『ハッ、そんなもんで全ての結果が塗り替えられるのか? 人間どもがこいつにした事が消えて無くなるって言うのか?』
 鬼の爪が拓朗の体にさらにめり込む、
「ぐああっ!」
 拓朗は苦痛に顔を歪める、しかし拓朗は痛みに耐え言い続ける。
「構わない! ……憎んだって、怨んだって良い…… ただ信じて欲しい! 中には酷い事をする一部の人間もいるけど…… ちゃんと動物や自然を愛せる人もいる…… 間違いと向き合える強い人間だっている。少なくとも僕の周りはそう言う人達しかいない!」
『莫迦が、そんな事言ってる内に…… な、何っ?』
 すると檮杌は鬼の爪が拓朗の体に突き刺さらない事に気が付いた。
 そして檮杌の体に水滴が落ちた。見上げると鬼が泣いていた。
『なっ、テメェ…… ぐっ!』
 すると檮杌に変化が訪れた。鬼の体がブレ始めた。
『バ、莫迦な! こいつ…… 俺との繋がりを切るつもりか? 本当に人間を憎んでたんじゃないってのか?』
 いや、憎しみはあっただろう、だがそれは恐怖や怯えによるものだった。
 しかし拓朗の優しさはそんな犬の心を包み込みやがった。
『グオオォ―――ッ!』
 すると鬼と犬の融合が解けて檮杌も元の姿に戻った。
 憑依していた鬼の方は黒い人魂みたいに檮杌の側で浮いていた。
『ぐっ、まさか…… こんな事がぁ!』
 檮杌は犬を睨みつける、一方犬の方は拓朗に抱かれながら顔を舐めていた。
 すると拓朗は笑顔で頷いた。
「大丈夫…… もう大丈夫だからね……」
 その姿を見た檮杌は怒りに身を震わせて大きく咆えた。
『テメェ等! 絶対に許さねぇぞォ!』
 檮杌は分離した鬼の魂を飲み込むと檮杌の目が怪しく輝いた。