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陰陽戦記TAKERU 後編

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 俺は四凶の気配を頼りにここにやって来た。
 だが香穂ちゃんの姿はどこにも見えなかった。
「香穂ちゃん! どこだ?」
 俺が叫ぶが返事は無い、猫の子1匹いない倉庫街は広い、
 どこをどう探して良いか考えているとすぐ後ろの倉庫の扉が開いた。
 俺はとっさに鬼斬り丸を構えるが、目の前に現れた人物を見て構えを解いた。
「香穂ちゃん?」
 香穂ちゃんはゆっくりと俺に近づいてきた。
「良かった。無事だったんだな……」
 俺が香穂ちゃんに手を伸ばす、すると……
『武、離れろ!』
「えっ?」
 麒麟がポケットの中から飛び出すと鈍い金属音が聞えた。
 見ると香穂ちゃんがナイフを握っていて麒麟がそれを遮っていた。
 麒麟がいなかったら間違いなく俺の腹に穴が空いてただろう、
「か、香穂ちゃん、何を?」
 俺は香穂ちゃんから離れる、
『チッ、しくじりましたか。』
 するとナイフが黒いオーラを放つと大きくななり身の丈ほどある巨大な刃の薙刀になると刀身に魔獣・窮奇の顔が浮かんだ。
「窮奇ッ!」
 俺が叫ぶが窮奇は俺の事など気にもとめなかった。
『さぁ香穂、この者を殺しなさい』
「……はい、窮奇様」
 窮奇様?
 何言ってんだ?
『気を付けろ武、香穂は奴に操られてる!』
「え?」
 どうやらそうらしい、香穂ちゃんの目には光が無い、
 明らかに洗脳されてる。
『人聞きが悪いですねぇ、私はこの子を助けてあげたのですよ』
「助けた? ふざけた事言ってんじゃねぇぞ!」
『ふざけてなどいませんよ。私は彼女が抱えている心を解放しただけです。』
「香穂ちゃんの心?」
 俺が見ると香穂ちゃんの小さな唇が動いた。
「……だ……い……らい…… 大嫌い!」
 香穂ちゃんの顔が強張ると大きく窮奇を上段に構えて振り下ろした。
「うわっ!」
 この前の香穂ちゃんが使った竜巻より強力な竜巻が巻き上がりアスファルトを砕いて後ろに広がっていた海面を抉った。
 巻き上がった海水は雨のように俺達に降り注いだ。
「何て威力だ……」
 正直冷や汗モンだ。
 まともにくらったらひとたまりも無い、
『上出来ですよ香穂、さぁこのまま邪魔者を倒しましょう。』
「はい」
「香穂ちゃん止せ!」
 香穂ちゃんは目にも止まらぬ速さで俺に接近して窮奇を振り降ろした。
 何とか紙一重で交わしたが掠った衝撃で服の胸辺りに亀裂が入った。
「くっ!」
 俺は白虎の力を解放して香穂ちゃんから離れるが基本的に窮奇は白虎と同じ力を持っていて俺との距離をすぐに詰めてしまう。
「香穂ちゃん止めろ! 俺は香穂ちゃんと戦いたくない!」
 俺は香穂ちゃんに呼びかけるが香穂ちゃんは俺の話を聞いてない、
「……嫌い、嫌い、みんな大嫌いっ!」
 香穂ちゃんは容赦なく俺を攻撃してくる、
 本当に何があったんだよ香穂ちゃん? 
『そうです香穂、全てを疑い全てを憎み全てを破壊するのです、君を救えるのは君だけです』
「テメェ……」
 何吹き込まれたかは知らねぇが少なくともこいつが何かしたってのは事実だ!
『武、奴を香穂から引きはなさいと負ける!』
「わーってるよ、だけど……」
 どうすりゃいい?
 俺の言葉は届かない上に逃げても俺と同じスピードで追いかけてくる。
「くそぉ!」
 俺は鬼斬り丸で窮奇を受け止める、
『フハハハッ! 攻撃しますか、やはり香穂などどうなっても構わないと?』
「うるせぇ! テメェは俺がぶった切る!」
 とは言えどうすれば良い?
 香穂ちゃん相手に手荒な真似は出来ないし、香穂ちゃんは正直メチャクチャ強い、以前言ってたけどこれのどこが弱いってんだよ?
「そりゃ俺は剣道なんてやった事が無い素人だけどよ、場数だけは踏んでんだよ!」
 スピードだけなら互角、だけど俺にしかない物があって香穂ちゃんに無い物があった。それは力だ!
「りゃああっ!」
 交差した窮奇を力ずくで払うと怯んだ香穂ちゃんの隙を狙って玄武の力を解放、刀身が黒く輝いて窮奇を攻撃した。
『馬鹿め!』
 しかし香穂ちゃんが窮奇を抱きかかえ背を向けた。
「やべっ!」
 俺は慌てて手を止める、危うく香穂ちゃんまで真っ二つにする所だった。
『そうは行きませんよ、香穂はもはや私の物、死ぬも生きるも一蓮托生です。』
 何が一蓮托生だ。利用してるだけのくせしやがって…… 
『さて、今度は私の番ですね!』
 窮奇の目が見開くと薙刀から陰の気が噴出して香穂ちゃんに纏わり着いて具現化、
 虎のような兜に鋭く長い棘が6本、2本づつ対に並んだ肩当てに虎模様の胸当てに背中からは白い翼が生え、棘だらけの篭手に虎の手を模した腰当に脛当て姿になった。
「なっ……」
 香穂ちゃんが武装した?
 いや、相手は聖獣と同じ力を持った魔獣だ。武装できても可笑しくは無いが……
『分かりましたか? これこそ香穂が私を受け入れた証拠です。そうですよね、香穂?』
「はい、全ては窮奇様の為に」
 本当にそうなのかよ? 香穂ちゃんは四凶に魂を売ったってのか?
『それだけではない、この娘にはさらに役に立ってもらいますよ。この娘さえいれば私は糧には困らない』
「糧?」
『愚かですねぇ、人間だろうと何だろうと喰わねば生きては行けないでしょう、香穂が普段行っている学校と言う場所には同じ年頃の子供がたくさんいるでしょう?』
 窮奇の顔が残忍に歪んだ。
「学校の子供を食う気かっ?」
『食う? 貴方の想像とは少し違うと思いますよ。我々は魔獣の力の源は陰の気、ですが好みと言う物が存在します。私にとっては幼い子供達の絶望や恐怖なのですがね……』
 刹那の沈黙が走ると窮奇が言う、
『子供達を死なない程度に切り刻み、痛めつけて泣き叫ぶ時に出る陰の気は私にとって最大の御馳走なのですよ』
「ふざけんな! 殺してるのと同じじゃねぇか!」
『何を怒っているのですか? 人間が牛や豚を食うのと同じですよ?』
「そう言われて『はいそうですね』っていえるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇんだ!」
 こいつを生かして置いたらとんでもない事になる、
 香穂ちゃんにこいつの手伝いをさせる訳には行かない!
『そうだよ、少年君』
「なっ?」
 俺は振り返る、
 するとそこには白虎がいた。
「白虎、お前一体どこ行ってたんだ?」
『聞くだけ野暮だよ。少年君』
 すると白虎は香穂ちゃんを見て俺の前に立った。
『何やってんだ香穂、そんな奴にたぶらかされて恥ずかしくないのか?』
 白虎が言うと香穂ちゃんは後ずさりをした。
「……白……虎……?」
『香穂、どうしたのですか? そのような猫などさっさと殺しなさい』
「……ううっ……」
『香穂、何をしているのです? 早くしなさい!』
『やっぱりね』
『何っ?』
『香穂はまだ本当に心を奪われてない、ほんの少しだけど正気を保ってる、でなきゃ少年君なんてあっと言う間にやられてるよ。』
 こいつやっぱりとんでもねぇ事言いやがる、確かに香穂ちゃんの場合は法力が低いってだけだけどな。
「……私、許さない…… 大嫌い!」
 香穂ちゃんは白虎を憎んでる、
 そりゃ喧嘩してんだから当たり前だけど、
『フン、今更出てきてももう遅い。香穂は私の契約者になったのです、過去の相方が現れて何を言おうとも……』
『お前は黙ってろ!』