陰陽戦記TAKERU 後編
「あった!」
俺達は元の世界に戻る出口を見つけた。
ポッカリと空いた穴の向こうには北野天満宮が見えてる、
「後少しだ」
俺が飛び込もうとした瞬間、遠くの方で爆発が起こった。
道真が滅んだと思ったが、その途端空間その物に異変が起こった。
まるでスイッチを入れた洗濯機の様に渦を巻くと俺達の体の自由が効かなくなった。
「な、何っ?」
まるで何かに吸い込まれてるように全然前に進めない、道真の爆発のせいで空間が乱れたのか? あと少しだってのに手を伸ばしても届かない、しかも出口は次第に閉じ始めていた。
学のバッテリーが切れて来たのか?
「武様、私を離してくださいっ! このままじゃ2人供元の世界に帰れません!」
「何言ってんだ! 美和さんだって帰るんだ! 俺達の世界に!」
「良いんです! 私は過去の人間です。武様は違います!」
「良くねぇし、違わないっ!」
住んでる所とか過去も未来も関係ない、俺のいる所は美和さんのいる所だ!
そう言うと美和さんは顔を俯かせて小さな口元を上にあげた。
「……本当に、代わらないですね、そう言う所」
「えっ?」
何言ってんだ?
「かつて私が愛した人もそうでした。身分なんて関係ない、私と結ばれないのならば貴族を辞めても、心中しても構わないと言ってくれました」
「そんなの、今関係……」
「武様」
美和さんはまるで俺の体によじ登るように顔を近づけると俺の唇に自分の唇を重ねた。
「大丈夫、信じてください」
俺の全身から力が抜けて美和さんが俺から離れた。
「美和さんっ!」
『いかんっ!』
すると麒麟達が飛び出すと俺が纏っていた聖獣の鎧が解除された。
聖獣達は美和さんの回りに集まるとそれぞれ実体化した。
『武、どうやらここでお別れみたいだな』
「麒麟、お前まで!」
『今まで楽しかった。ガソダム観れないのが残念だけどな』
「ふざけんな! どの時代に飛ばされるか分からないんだぞ! ガソダムどころかノラえもんだって……」
『それは大問題ね』
「朱雀!」
今度は朱雀が言って来た。
『武、私…… 以前美和が傷つけられた事で怒ったわよね、あの時はどうかしてたわ。別に武が悪いんじゃ無いのに…… ごめんなさい』
初めて饕餮と戦った時の事か? そんなのどうでも良い! 俺が悪いんだ!
『良いのよ、私が謝ってるんだから』
「だけど……」
『女の子の意見は、素直に受け止める物だよ少年君』
「白虎」
白虎はため息を零した。
『僕だって香穂や恋人(雌猫)達が心配だけど、みんななら大丈夫だよ、何せあの世界には君がいるからね』
「お前、俺に押し付けるってのか?」
『押し付けるんじゃない、頼んでるんだよ、武』
こいつはやっと俺の名前を呼んでくれた。だけど今はちっとも嬉しくない、
『そうですね、貴方も辰也様ほどではありませんが…… 中々良くやりましたよ』
「青龍」
青龍は静かに目を閉じると飽きれた感じで言って来た。
『全く、何て顔ですか、貴方は暗黒天帝や魔獣を倒したんですよ、もっと胸を張っても良いんですよ』
どんな顔してるかなんて分からねぇよ、
『自信を持て武氏』
「玄武……」
玄武はいつもとなんら変わりなかった。しかしどこか寂しそうだった。
『出会いがあれば別れもある、だがこれだけは覚えておけ、どの時代でも我等は繋がっているんだ』
「繋がってるって…… 別れたらお終いだろ!」
「そんな事はありません」
再び美和さんが口を開いた。
「私もそうでした。二度と会えないと思っていたらまた会えました。運命の人に…… 貴方に」
美和さんの瞳から涙が流れた。
「別れはほんの一時的です、すぐにまた会えます」
「美和っ!」
思わず呼び捨てにしちまった。
美和さんは俺に向かって残った法力を左手に込めて放った。
まるで見えない手で強い力で押されたかのように俺はタイムトンネルの出口に押し戻された。
「美和ぁ――――――っ!」
俺の意識はそこで途切れた。
作品名:陰陽戦記TAKERU 後編 作家名:kazuyuki