小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

陰陽戦記TAKERU 後編

INDEX|110ページ/115ページ|

次のページ前のページ
 

「……ける…… 武っ!」
 俺は目を覚ました。
 どうやら気を失っていたらしい、学や香穂ちゃんや拓郎に桐生さんが心配そうに見守る中、加奈葉が必死に俺の両肩を掴んで揺すっていた。
「ここは……?」
 北野天満宮じゃない、近くの公園だった。
「移動したんだ。そろそろやばくなってきたからね、」
 確かにな、あれだけの騒ぎがあったんだからいつ人が騒いでもおかしくなかった。
 タイムトンネルから落ちて来た俺を桐生さんと学と拓郎が体を張って受け止めてくれたおかげで俺はかすり傷一つ負わなかったらしい、
「武、美和さんは?」
「それに…… 白虎達も」
 俺はタイムトンネルの中で起こった事を思い出した。
 道真が消滅したショックで不安定だった時空の流れが逆流し、美和さんは俺まで巻き込まれるのを恐れて離すように言って来た。そして……
「美和さんは……」
 俺は美和さんと麒麟達は時空の彼方に消えて行ってしまった事を皆に話した。
「そんな、何で手を離したりしたのよっ?」
「それは……」
 俺は言えなかった。
 別に美和さんにキスされたのが恥ずかしかったからじゃない、離さないと言ったにも関わらずに彼女の手を離してしまった事が言い訳みたいでみっともなかったからだ。
「すまない、俺の責だ……」
 俺は頭を下げた。
 みんなは信じて俺と美和さんを行かせてくれた。
 だが結果は俺だけ帰って来て美和さんや聖獣達は行方知れず、もう二度と会う事は出来ない、
「どうしてよ…… 何で……」
「加奈葉ちゃん」
 その場に膝を付いて泣き崩れる加奈葉の両肩に学は両手を乗せた。
「……こうしてても仕方が無い、帰ろうか」
 桐生さんの言葉に俺達は京都を離れる事になった。

 俺達は新幹線が動く時間を待って京都駅から東京に向かった。
 麒麟がいるならあっという間に戻れるんだけどな、
 揺れ動く新幹線の中、俺達は会話もなく駅で購入した駅弁すら食えない状態だった。空腹感はあるのに食べる気がしない、
「武君」
 すると俺の隣の窓側の席で景色を見ていた桐生さんが言って来た。
「すいません、俺の責任です」
「いや、その事はもう良いよ、俺達全員で決めた事だ」
 桐生さん本人も納得はしてないだろう、
 だけどこの状況は認めざるおえない、
「もう、会えないんだよな……」
「ええ……」
 俺はうなづいた。
「俺は…… 美和さんに何かしてあげたでしょうか?」
「えっ?」
「美和さんは…… 俺の為に色々してくれました。」
 この慣れない世界で炊事に洗濯、さらにアルバイトまでしてくれた。俺のやった事って何だ? 家に同居させる事か? 一緒に道真や魔獣を倒す事か?
「俺は…… 美和さんに……」
 俺の目から涙が零れ落ちて両手の甲を濡らした。
 桐生さんはため息を零すと言って来た。
「それを言うなら俺だってそうさ」
「えっ?」
「青龍とであってから結構色々な事があったけど、俺は結局何もできなかった」
「そんな事ないでしょう!」
 少なくとも桐生さん無じゃどうにもならない時だってあった。
 夏の洋館の事や混沌と戦った時、さらにこの人が駆けつけてくれなければ俺達は加奈葉に憑依した饕餮にやられていた。
「俺は…… 美和さんは美和さんなりに幸せだったと思うよ」
 すると桐生さんは微笑しながら言って来た。
「俺な、中学の頃…… 丁度拓郎君と同じくらいの頃か、好きな女の子がいたんだ。だけどズルズルズルズル引きずって、結局卒業してそれっきりだ。後悔したよ、自分が意気地なしだってな」
 桐生さんは苦笑した。
「君達は自分の意志で菅原道真を倒そうとタイムトンネルの中に飛び込んだ。確かにこんな結果になるとは思って無かっただろうけど…… あのまま何もしなかったら君は美和さんと一緒にいても後悔しただろ?」
 そりゃまぁそうだ。
 あいつが過去に戻ったら今のこの世界が消えて無くなるかもしれないからな、
「君も美和さんも、お互いを信じて飛び込んだんだ。違うか?」
「ええ、」
 それは事実だった。
 美和さんだって俺の事を『私が愛した2人目の方』って言ってくれた。
 俺達は確かに互いに認め合っていた。
「この世界に飛ばされて、君と出会わなければ美和さんはどうなっていたか分からない、菅原道真の放つ鬼にやられてたか…… もしくは悪い奴らに騙されるか…… いずれにしろ君に会えた事が美和さんの幸せだったんじゃないのかい?」
「会えただけで……」
 俺は両親を失って加奈葉や学や学校の友達と一緒にいたけどずっと家では1人だった。1人暮らしには結構なれたけど結構虚しい物だった。親父達が生きてた頃は口うるさいとか1人にしてくれとか思ったけど、実際そうなってみると心細かった。
 でも美和さんが来てくれてから俺は毎日が楽しかった。
 美和さんが笑ってくれたら嬉しかったし、怒ったらマジで怖かったけど、それも含めて俺は幸せだった。
「ま、俺の感だけどさ…… 俺は少し寝るよ、着いたら起こしてくれ」
 それだけ言うと桐生さんは腕を組んで瞼を閉じて何も言わなくなった。