雨 恋
薫はショーウインドウのディスプレイに夢中だ。
『お前の姿は、その子にしか見えていないんだぞ!』
“知ってるよ”とばかりにソーマが頷く。
『お前、そのままじゃ……』
ソーマが薫を見て微笑んでいる。言いたくない言葉が喉まで上がってくる。
『そのままじゃ、消滅しちゃうんだぞ!』
勢いで叫んでしまったトールが自分の口を押さえた。ソーマには知らせないで、連れ戻したかったのに……。
が、ソーマは黙って頷く。その事を既に知っていたかのように。
『ソーマ!!』
――――――――――――
良と手をつないで街を歩く。すれ違う人達がこちらを見て微笑んでいる。自分達はそんなに幸せそうな顔をしているのかしら? とショーウインドウの自分達を見る。
(……え?……)
ショーウインドウに映る幸せそうな笑顔の自分。その隣には……。
(……良ちゃん!?)
自分以外誰の姿もないショーウインドウ。薫が隣を振り返る。
「良ちゃん!」
「何?」
何やら頷いていた良が、薫を見て笑っている。そっとウインドウを振り返る薫。そこに映る良の姿。
「なんでもない」
繋いでいた手を離して、良の腕にしがみつく薫。
「変な奴だな」
クスクスといつもの笑顔の良の顔を薫は見つめていた。
――― 夢を見ていた。
淡くきらめく霧の中、綺麗な顔立ちの少年がいた。黙ってこっちを見つめている。まるで、何かを懇願するかのように哀しそうな顔でこちらを見ている。
真っ白な光に包まれたその少年の背後には、真っ白な翼。
「……天使……?」
首を傾げながら薫が恐る恐る手を伸ばす。
「……良ちゃんを……迎えに来たの?」
天使は何も言わない。
「良ちゃんを……連れていくの?」
何も言わず何も動かず、ただこちらを見つめている。
「私は……何をすればいいの?」
夢の中。天使は黙って佇む。
そして、そのまま、朝になっていくのだった。 ―――
「……良ちゃん?」
花時計の前のベンチに腰掛けて、薫が良の顔を覗き込んだ。
「どした?」
いつもと変わらない笑顔が返ってくる、が、何かが変だ。
「顔色、悪いよ。帰る?」
いつもと何ら変わりはないのだが、最近、良の顔色が優れない。“蒼い”とか“白い”とかではなく、時々消えてしまうのではないかと思うほど存在が薄くなるのだ。最近見た“天使の夢”の所為かもしれない。