雨 恋
「明日、勝つから、絶対!」
「……うん……」
「国立、連れてってやるから」
「……うん……」
「勝ったら、ピッチまで下りて来いよ!」
「……う……、な、なんで!?」
驚いて顔を上げた薫の顔に、良の顔が重なる。落としそうになった傘。薫の手に良の手が重なった。
「約束だぞ」
「……う、うん……」
――― ソーマが胸をおさえた。
『薫っ!!』
飛び出したソーマを追って、
『ソーマ!ダメだよ!!』
トールがその腕を掴んだ。
人間と天使は相容れない関係である。天使は人間を見る事が出来るが、人間には天使は見えない(死の瞬間を除いてであるが)。
永遠を生きる“天使”と限られた時間を生きる“人間”。存在の根本が違うのだ。それ故、人間との恋愛はご法度なのである。万が一、人間と恋に堕ちたとしよう。存在の源の違う二つのものが共存するという事は、何らかの影響がより弱い方へと出てしまう。天界においては絶対の天使。だが、人間界においての絶対は人間なのだ。そう、影響を受けるのは人間ではなく、天使の方なのである。
『上で見守るのが、ボク達の仕事だよ!』
そう言って、戻ろうと促す。
『でも、トール……』
『あそこに行って、彼女を抱きしめて……。君が良の代わりになるのは容易いかもしれない。でも、それは正しい行いじゃない!』
トールの言葉にソーマが唇を噛締める。
『立ち直るまで、見ていてやろうよ』
スタンドまで降りていたソーマの翼が閉じた。
一週間が経った。薫の衰弱は目に見えて明らかだった。結ばれていた赤い糸は見事に切断され、行くあてもなく風に漂っている。新学期が始まったというのに、薫は学校へ行くことも出来なかった。行けば、空席の良の机を目にする事になる。良のいないグランドを見る事になる。それが、耐えられなかったのだ。だから、この一週間、薫は自分の部屋に閉じこもったままだった。
『……薫……』
泣き伏せる薫の髪を撫で続けるソーマ。相容れない存在の天使であるソーマの温もりに気付く事無く、薫は泣き続けていた。
そして、一週間後のこの日、薫はあれから初めて部屋を出た。父も母も仕事でいない。姉と弟は学校である。何も持たずにフラリと外へ出る。折りしも、外は雨。あの日と同じ、冬の冷たい雨が降っていた。
「……良ちゃん……」