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雨 恋

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 そう言って一人頷く。
『仕事は、あの人間?』
 問い掛けにソーマが頷いた。
 “雨の天使”よりずっと上のランクの“運命の天使”。その中でも、二番目に重要とされる“赤い糸”の管理を任務とする天使なのだ。
『相手は決まってるの?』
『うん。随分前から……。相手が判定年齢になったから、今日執行』
『つまんなそうだね?』
『んな事ねーよ』
 プイと顔をそむけるソーマにクスクスと笑う。
『ダメだよ、人間に恋しちゃ』
 “天罰、下っちゃうぞ♪”と、冗談なんだか本気なんだか……。
 ――― 「薫! 先に帰ってろって言ったろ?」
 ――― 「だって、良ちゃん、傘忘れたって……」
 雨の中のピンクの傘を見つめるソーマ。
『ソーマ!』
 コツンとこぶしが頭に当たり、ソーマが振り返った。
『マジで、やめろよ。人間は』
『そんなんじゃねーよ』
 フイと顔をそむけ、ソーマがネットからふわりと降りる。行き先は、ピンクの傘の下の二人のところ。
 少女の小指に新しく結ばれた赤い糸と少年の小指の赤い糸を手に取る。
「ックシュ!」
 ソーマが結ぼうとした瞬間、少女がクシャミ。思わずソーマの手が止まった。
「だから、先に帰ってろって……」
 右頬に笑くぼをへこませて少年が笑う。愛しそうに少女を見る少年の姿にソーマの姿が重なって見えて、もう一人の天使が慌てて降りてくる。
『ソーマ!』
 肩を叩かれてビクッ! とソーマが我に返った。
『お仕事』
 そう言って二人の糸を指差し、ソーマに微笑みかける。
『トール……、俺……』
 トールと呼ばれたもう一人の天使が黙って頷いた。
 ソーマが震える手で糸を結ぶ。
『自分に似た男の子が相手で良かったじゃん?』
『……うん……』
  ――――――――――――

  
「矢野っち!」
 放課後、グランドの端でサッカー部の練習を見ている薫に、クラスメイトでサッカー部マネージャーの洋子が声を掛けて来た。
「そーやって毎日見てるなら、マネージャー、やらない?」
「……でも……」
「兄貴……もとい、キャプテンがね、外で見るのも中で見るのも同じだから、どうせなら手伝ってくれると嬉しいなって」
「……でも、私、良ちゃんの……」
 言いにくいが、自分は良の姿しか見ていない……と。
作品名:雨 恋 作家名:竹本 緒