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雨 恋

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 その質問に、自分の姿を見下ろす薫。脱いだサンダル。びしょ濡れの髪、身体。
「……あたし……。えっと……。やだ……。何……?」
「訊いてんのは俺の方!」
 “QにQで返してどーすんだよ!”とまた笑くぼの頬で笑う。
「今日は久し振りに練習が早く終わったから、午後からデートするって……。何? マジで忘れてた?」
 言葉が返せない。
「二時に駅前の花時計の前で待ち合わせ、って……。おい!!」
「わ、忘れてないよ!」
 呆れる良に慌てて薫が首を振る。
「ちゃんとここまで来てるじゃない。歩道橋下りたら、すぐに花時計だもん!」
「じゃ、“これ”は何?」
 指差されて、薫が言葉に詰まる。
「……え、と……。これは……」
 呟きながらサンダルを履き直す。その姿が可愛くて、良がまた笑った。
「とりあえず、傘を忘れた訳だ。帰るか」
「良ちゃん!?」
「そんなんじゃデート出来ないじゃん。一旦帰って、着替えて来い。デートはそれから!」
 いつもと変わらぬ笑顔で良が笑う。
「……良ちゃん?」
「ん?」
 肩に掛けた部活バッグを掛け直し、良が笑顔のまま薫の顔を見る。
「何でもない」
「傘、折りたたみだから」
 そう言って薫の肩を抱き寄せる。
「ま、今更濡れても、変わりないか、お前」
 膨れる薫に良がケラケラと笑った。

  
  ――――――――――――
 雨が降っていた。小雨の中、学校のグランドで泥まみれになって声を張り上げている男子生徒。各々がユニフォームの上にゼッケンをつけている。
「右サイド! 固まるな!」
 ゴールの前にいる少年の指示が飛ぶ。
「マークが外れてるぞ!」
「ボールを見失ってどうする!?」
「インパクトの瞬間に目を閉じるな!!」
 次々と指示が出され、その度に、指された方の少年達が返事をする。
『ゲーム?』
 グランドの周りに張り巡らされたネットの上に、一人の天使が降り立った。問い掛けた先には別の天使。
『“サッカー”っていうものらしい。あそこに……』
 と声を出している少年の背後のゴールを指差す。
『あそこにボールが入ると得点される』
『ふーん。……ね、ソーマ』
 ソーマという名の天使の隣に腰を下ろして、後から来た天使がそのゴールを……いや、ゴール前の少年とソーマを見比べて言った。
『あの人間、君に似てるね』
『そうか?』
『似てるよ。うん。そっくり!』
作品名:雨 恋 作家名:竹本 緒