雨 恋
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「靴って、ブーツとかミュールとかじゃないのかよ!?」
商店街を少し離れたスポーツ店で良が声を上げた。
「部活用のだもん」
笑いながら薫が店内のシューズコーナーへと急ぐ。
「部活?」
いつも良の練習を見ている薫。部には所属していない筈だ。
「うん。以前から洋子に誘われてたの」
「何部?」
首を傾げる良に、
「サッカー部」
“洋子、マネージャーでしょ?”と薫が笑顔を返す。
「マネージャー……やんの?」
「うん」
「やだって言ってたじゃん」
「だって、心配なんだもん。マネージャーだと、ずっと一緒にいれるでしょ?」
何かあった時、なんのためらいもなくグランドへ出る事が出来るから……と笑う薫の笑顔に笑顔を返そうとしたその瞬間、
“ドクン!”
大きな鼓動がソーマを包み込んだ。
「……そ……だな……」
思わずその場にあった椅子に腰を下ろす。
「……良ちゃん?」
「な、何でもないよ。ここで待ってるから、会計済ませて来い」
「う、うん」
頷いて二・三歩進み、薫が振り返る。
「すぐに戻るから、ここにいてね」
「おう!」
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薫の姿が見えなくなってすぐ、ソーマが何かを掴もうと手を伸ばした。
『ソーマ!』
その手を掴むトール。ソーマの姿が今にも消えそうだ。
「ごめん、トール。……限界……みたい、だ」
手を通してトールがエナジーを送り込むが、ソーマの姿はどんどん透けていく。
『ソーマ……』
「泣いてんじゃねーよ!」
『泣いてなんかいないよ!』
「約束。……頼む……」
抱き締める間もなく、ソーマの姿は消滅した。
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「お待たせ、良……ちゃ……」
会計を済ませた薫が戻ってきた時、そこには夢に見た天使の姿があった。いや、一瞬、良の姿もあったのだ。だが、それは確認する事無く、その場から消滅していた。
「……どうして……? どうして“天使”が良ちゃんを連れていくの!?」
取り乱す薫の言葉に黙ったまま首を振り、天使がスクと立ち上がった。そして、そのまま薫の正面に立つと静かにその手を薫の額へと近づける。
『君の“記憶”を返してもらいます』
そう言ったかと思うと、薫の額から光の玉が少しずつ引き出されていく。
「……やだ……。良ちゃんの思い出……。思い出まで、連れていかないで……!」