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雨 恋

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『持って行くのは、“ソーマ”の思い出だけだよ、薫』
  ――――――――――――
「あれ? 私……」
 スポーツ店のシューズコーナーで、新しいスニーカーの入った紙袋を持って薫が首を傾げた。
「洋子に誘われて、マネージャーの件をOKして、部活用の靴を買って……」
 記憶を辿っていく。
「なんで泣いてるのかしら?」
 溢れる涙に訳が分からず、とりあえずハンカチを出して涙を拭く。
「変なの……」
 一人クスクスと笑いながら店を出る。不意に携帯が鳴り、
「あ、はい、洋子? うん、靴買ったよ。それでね……」
 何事も無かったかのように、薫は店を後にした。


 薫のいなくなった店内。
 シューズコーナーの一角の椅子の上に落ちている小さな赤い輪を白い手が拾い上げる。
『……ソーマ……。帰ろう……』
 赤い輪を光の玉の中に入れ、大事そうにそれを抱えたトールが……翼を大きく広げた。



作品名:雨 恋 作家名:竹本 緒