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チューリップ咲く頃 ~ Wish番外編② ~

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 しかし、誰一人として小学生の女の子の呼び掛けに答えてはくれなかった。相手は、札付きの乱暴者で、兄が中学野球部のエースで、ちょっとした実力者の次男坊だったりするのだ。試合が近くて、今日はレギュラー陣がグランドで練習。補欠は川原で練習。次男坊を含む新入部員の一年生は補欠の練習の更に補佐……つまりボール拾い……をしていた筈らしい。それが、数人が途中でいなくなったというのだ。中学校へも行ってみたが、小学生の木綿花は門前払いだった。
「……誰か、証言してくれる人、いませんか!!」
 学区内を一周し、戻って来た広場前、木綿花は、まばらな人の流れに声を掛ける。
「……お願い……誰か……」
  ―――――――――――――――
「反省する気もないのかしらね!」
 連行された交番の中、中学生達の親が呼び出され集まるのに十分とかからなかった。それぞれが自分の息子達の言葉を聞いて、ケガを見て、悲鳴を上げたり涙したり……。
「バットで殴ったんじゃないの!?」
(……それは、アンタの息子の持ち物だよ……)
「こんなに血が出て……」
(……俺も出てるけど……)
「練習の邪魔をした上に、暴力までふるって……」
 ……怒っちゃいけない……。自分にそう言い聞かせて、慎太郎は深く息を吸い込んだ。
「練習は、グランドでやるんじゃないんですか?」
 中学生サイド全員が慎太郎を見る。
「レギュラーの人達がグランドで練習しているのを見ました」
「ちゃんと許可を取ったのよ!」
 と言い、息子に「ねぇ?」と猫撫で声で確認を取る。
「……う、うん……」
 息子の返事はハッキリしない。当たり前だ、公共の広場の使用許可が“補欠の練習”なんかの為におりる訳がない。
「治療費はキチンと出して貰えますわよね!?」
 慎太郎を見ながら、警察に詰め寄る。
「その件に関しましては、この子のご両親が到着し次第、双方で……」
 おばさんパワーに警官もタジタジだ。と、
「あら?」
 一人の母親が慎太郎を見て眉をひそめた。
「“ご両親”は無理ですわ。この子、母親しかいませんもの」
 慎太郎の肩がピクリと動いた。
「片親!? ちゃんと教育してるのかしら?」「一人じゃ、手が回らないんじゃありません?」「子供のこういう性格を知らない、とか?」「今だって、仕事かどうか……」「あら、やだ!」
 横目で慎太郎を見ながら、母親達が笑う。
“ダンッ!!”
 慎太郎が、交番のデスクを叩いた。
  ―――――――――――――――
「……お願い……。慎太郎を……助けて……」
 軽く握ったこぶしで目元を覆い、堪え切れずに木綿花が涙を流した。
「しんたろうくんが、どうかしたのかい?」
 低く響く優しい声に、涙でボロボロになった顔で振り返ると、そこには、グレーのスーツの男性が優しく微笑みながら立っていた。
「……足長、おじさん……?」
 いつか慎太郎から聞いた“足長おじさん”が、そこにいた。
「君、ゆうかちゃん?」
 驚きつつも頷く。
「しんたろうくんが、どうかしたの?」
 木綿花の高さまでしゃがみ込み、男性が木綿花の頭を撫でる。
「……中学生とケンカして、警察に……。でも、慎太郎は悪くないの。……最初にケンカしてたのは、あたしで……。でも、中学生が、ここで練習するって言うから……」
 頷きながら、木綿花の言葉を整理していく“足長おじさん”。
「……あたし、一生懸命探したの。……でも、誰も、聞いて、くれなくて……。慎太郎、悪くないのに……。あたし、助けてあげられなくて……」
「遊んでいたのは三時ごろ?」
 頷く木綿花の肩を撫でるように叩くと、男性は立ち上がり、木綿花の手を引いて歩き出した。少し左足を引き摺って歩く木綿花。押された時に挫いたのだ。それを庇うように、男性が木綿花の脇に手を添える。
「しんたろうくんが、君達を庇ったって事を証言してもらえればいいんだね」
 歩道に出ると、男性は商店街の方を向いて立ち止まった。木綿花の手を握り締めたまま……。そして、買い物帰りの若い母親達に声を掛けていく。
「三時頃、こちらの広場でお子さんを遊ばせていらっしゃった方をご存知ないですか?」
 ……そういえば、小さい子供とそのお母さん達が何人かいた……。
 男性の言葉に、母親達は訝しげに顔を見合わせるが、
「うちの娘を助けてくれた男の子が、補導された様で。誤解を解いてあげたいんですよ」
 その言葉に納得したかのように小さく声をあげる。その横で、“うちの娘”に驚いて見上げる木綿花。男性が小さく微笑む。
「……それなら……」
 頷き合う母親達の口から、数人の名前があがりはじめた。
「紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?」
 男性が人当たりの良さそうな笑顔を向けると、母親達はまんざらでもない様子で、
「こっちです」
 と、案内を始めるのだった。
  ―――――――――――――――
 突然の大きな音に驚く母親と中学生達。
「母さんは関係ないだろ!?」
 慎太郎が怒鳴るが、
「ま、やっぱり……」「母親だけじゃぁね……」
 逆効果である。
「君!」
 警官が慎太郎を抑えるように抱える。
「……両親が揃ってるのが、そんなに正しい事なのかよ?」
 抑えられたまま、慎太郎が中学生を睨みつける。
「両親が揃ってれば、好き勝手していいのか!?」
 抑える警官の手が、思わず緩んだ。
「両親が揃ってれば、女の子に暴力ふっていいのか!?」
 慎太郎の言葉に母親達が自分の子供を見る。が、すぐに
「うちの子はそんな事は……」「言いがかりだわ……」
 と口々に否定する。
「そんな女の子なんて、いなかったじゃありませんか!?」
 リーダー格の中学生の母親である。
「こうやって、平気で嘘までつくなんて……」
 と警官に向かって呆れたように言い放つ。
「女の子がいるって言うのなら、ここに連れていらっしゃい!!」
 今度は、逆切れした母親が署内のデスクをバンッ!と叩いた。
 ここに木綿花を呼ぶわけにはいかない。
 慎太郎は、唇を噛み締めた。
  ―――――――――――――――
「ありがとうございます」
 これで五軒目。五人目の証人に“足長おじさん”が頭を下げている。
「私達の証言で、少しはあの子達も反省してくれるといいんですけど……」
 集まってくれた若い母親達が言う。
 今回に限らず、その少年達には周りも迷惑していたのだ。ただ、何を言っても、その母親が頑として受け入れず今に至っている。証言を承諾してくれた人達は、小さな自分の子供にそういう事をされた経験がある人達だった。今回、たまたま警察沙汰になった事で、少しは改善されると思っていたらしい。が、誤解で、別の少年が責められていると分かり“足長おじさん”の説得で警察に向かっている。
「ゆうか」
 名前を呼ばれて、木綿花が男性を見上げる。
「皆さんと一緒に警察に行けるね?」
 え!? と木綿花が驚く。
「……おじ……お父さんは?」
 “おじさん”と言いかけた言葉を慌てて訂正する。
「これから事情を説明しに、中学校へ行ってくる」
 その言葉に、母親達も驚く。
「その方が、少年達の為にもなるでしょう。“息子”“生徒”可愛さに、少々甘くなっている様ですし……」
 頷く母親達に、