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チューリップ咲く頃 ~ Wish番外編② ~

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「ここは、みんなが使う公園でしょ!?」
 金曜日の午後の公園に、木綿花の声が響き渡る。
 あれから、更に二年。二人は五年生になっていた。
「だから、俺達みんなで使うって言ってんだろ!!」
 中学生男子が数人、ユニフォーム姿で立ちはだかる。
 手にはグローブ、ボール、バット……。
「だったら、学校でやればいいじゃない!!」
 声を張り上げる木綿花の周りを小学生が取り囲む。午後の公園で遊んでいた子供達だ。
 金曜日の午後、子供達が入り乱れて遊ぶ公園に、突然、野球のユニフォームを着た少年達が乱入して来た。そんなには広くない公園、広場で遊んでいる子達をバットで追い払い、遊具で遊んでいる子達をも追い払おうとした。木綿花は友達と滑り台で遊んでいるところだった。元々気の強い木綿花は、正義感も強かった。理不尽な乱入に腹を立て、その場にいた子供達を代表して立ち上がったのだ。
「小さい子だって遊んでるのよっ! こんなとこで、野球なんかやったら危ないじゃない!!」
 相手が自分より大きかろうが大人数だろうが、正義感の強い木綿花は怯まない。そう、自分は間違ってなどいないのだから。
「そう思ったから、公園(ここ)から出てけ! って忠告してんじゃねーか!!」
 詰め寄る中学生に、
「間違ってるって言ってるでしょ!!」
 一歩たりとも引かない。
「部活動は、学校でやって下さい!!」
 木綿花を先頭にチビッコ軍団に詰め寄られ、
「うるさいっ!!!!」
 中学生側の先頭にいた男子生徒が、
“ドンッ!”
 木綿花の肩をバットで強く押した。
  ―――――――――――――――
 日直の仕事を終えて、友達と談笑しながら家路を行く。ランドセルを置いて、宿題のプリントを学校に忘れた事に気付き、慌てて学校へ戻る……。その途中の道、何やら公園が騒がしい。通りすがりに視線を公園側に流しながら歩く。どうやら、子供同士のケンカらしい。低い怒鳴り声が聞こえる。男子の塊は中学生のようだ。
「なにを争ってんだか……」
 やれやれ……、と通り過ぎようとしたその瞬間。
『……たら、危ないじゃない!!』
 聞き覚えのある声が……。声のする広場の方を見てみるとそこには中学生男子相手に、小さな子達を庇うように立つ、
「木綿花!?」
 の姿があった。
「あのバカ! 相手は中学生じゃねーか!!」
 目の前の植え込みを跳び越し、慎太郎は広場に駆け込んだ。
  ―――――――――――――――
“ドンッ!”
 押された木綿花が
「キャッ」
 よろめいて後ろの友達に凭れかかる。
「木綿花、もうやめよ」
 木綿花を支えながら、友達が小さな声で囁いた。
「どうして!? 悪いのは、あっちよ!?」
「練習の邪魔だから、とっとと帰れよ! 小学生!!」
 不意に、バットが木綿花の足を掬うように過ぎった。フワリと浮いた身体が友達を巻き込んで尻餅をつき、近くにいたチビッコ達が悲鳴を上げて広場を走り去る。
「木綿花」
 友達二人が転んでいる木綿花に手を差し出すが、
「痛いっ!」
 直接バットで足を叩かれた木綿花はすぐには立てない。
「さっさと出て行けよ!」
 立てない木綿花に痺れを切らせた中学生が、バットを振り上げた。木綿花達三人が固まって首を竦める。怖くて、声が出ない。バットが振り下ろされる音が聞こえ、頭を両手で庇う。
“ゴンッ”
 鈍い音がして、女子三人が目を開けた。各々、痛みがなく、友達を心配する。が、三人の前に誰かが立ち塞がり、振り下ろされたバットをクロスした両腕で受け止めていた。
「バカ野郎!!」
 バットを振り払い、後ろを振り向く。
「……慎太郎……」
 友達の手を借りて、やっとの思いで立ち上がった木綿花が名前を呼んだ。
「友達巻き込んで、何やってんだよ!?」
 慎太郎に怒鳴られて木綿花がシュンと項垂れる。
「何だ何だ? 彼氏の登場か?」
「小学生のクセに!!」
 再びバットを振り上げる。標的は、勿論、木綿花だ。
「意地張ってねーで、帰れ!」
 慎太郎がバットを押さえて女子に向かって首を振る。
「邪魔すんじゃねーよ、チビ!!」
「早く、行け!!」
 言うと同時に、押さえていたバットを押し戻す。木綿花達の姿が下がって行くのを確認し、
「チビじゃねーよ!」
 そう言って一歩前へ出る。五年生の割には長身な上に既に声変わり済みであるその姿に、中学生側の方が慌てる。
「小学生のクセに、中学生に逆らう気か!?」
 バットを片手に中心核の少年が慎太郎の正面に立った。
「中学生のクセに、小学生の女子に暴力ふっていいのか!?」
 木綿花達が出て行ったか心配で、チラリと後ろを気にする。その隙をつくようにバットが伸びてくるが、それを紙一重で躱し睨みつける慎太郎。
「随分、卑怯な事するじゃないか!」
「お前こそ、小学生のクセに、随分生意気じゃねーか!」
 ――― 広場に嵐が吹こうとしていた。


 誰もいなくなった広場の周りを人影を探して走る。近くの小さな公園も、すぐそこの商店街も一生懸命探した。
「……誰か、証言してくれる人、いませんか!!」
 周りの無反応に零れそうになる涙を飲み込み、木綿花が懸命に声をだす。でも、誰も、小学生の少女の呼び掛けには応答してはくれなかった。
 ――― 慎太郎に怒鳴られて友人達と広場を出たものの、心配で、一人、途中で引き返した。自分達がもめていた時よりも増えている人だかりに何事かと思い、人ごみを掻き分けて奥へと入ると、そこにはケガだらけの中学生と慎太郎が、制服に身を固めた男性達に引っ張られ、広場を出る所だった。
「こいつが悪いんだ!!」
 リーダー格の中学生が、制服の警官に付添われながら慎太郎を指して叫んでいる。慎太郎は何も言わない。それをいい事に、他の中学生が口々に前者と同じ事を言い始めた。
「こいつが練習の邪魔をした」「殴りかかってきた」「文句をつけたのはこいつだ」
 警察に付添われながら、言いたい放題だった。そして、順番に木綿花の脇を連行される。
「……慎……」
 声を掛けようとした木綿花を慎太郎が睨みつけた。
“帰れ!”
 そう言われた気がした。集まった野次馬達が引き返す中、木綿花はただ立ち竦んでいた。自分の引き起こした事を慎太郎は持って行くつもりなのだ。あちこち傷だらけだった。あの時慎太郎が来てくれなかったら、自分が同じ目に遭っていたに違いない。
(……守ってくれたの……?)
 女の子である自分の身体と心を……?
「……違う……」
 慎太郎の“守り方”? 自分の“正義感”? 見て見ぬフリをしていた人達?
「……違うの……!」
 去って行く人達に向かって、木綿花は叫んだ。
「違うのっ! 悪いのは中学生の方なの!!」
 何人かが振り向いたが、苦笑いして肩を竦める。
「慎太郎は悪くないの!! 見ていたなら、分かるでしょう!?」
 今度は誰も振り返らなかった。
 木綿花は走り出していた。
 ――― 走りながら道行く人々に声を掛ける。
「誰か、広場の事を最初から見ていた人はいませんか?」