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チューリップ咲く頃 ~ Wish番外編② ~

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(……なぁんだ……)
 それを見て、慎太郎が微笑む。
「“嘘つき”は木綿花の方だね」
 慎太郎の言葉に、涙でいっぱいの瞳をこちらへ向けてくる。
「パパもママも大好きなくせに」
 木綿花と同じ様に両膝を抱え込み、その上に乗せた顔を木綿花に向ける。
「き、嫌いだもん!」
「じゃ、なんで泣くのさ?」
 木綿花が、涙を溜めたまま眉を寄せた。
「大好きなパパとママが“パパ”と“ママ”じゃなかったからでしょ?」
 慎太郎の言葉に木綿花がハッとする。
「でも、伯母さん達は、木綿花の“パパ”と“ママ”だよ」
「“パパ”と“ママ”……」
 木綿花の呟きに慎太郎が頷く。
「ボク、考えたんだ。一生懸命……」
 ショックが大きくて、哀しい筈なのに涙すら出なくて……。胸が辛くて……。なんでかな? って考えた。お母さんが内緒にしていたから? ……違う。内緒にしなければならなかった事はなんとなく分かる気がした。ボクらがまだ子供だから、説明してもよく分からないから。
 でもね、木綿花。お母さんはボクらが“大事”なんだと思う。だから、いつも一緒にいられるよう、“お隣さん”なんだと思う。全然知らない人に手渡すんじゃなくて、お姉さんである伯母さんに木綿花を養女に出したのは、本当は手放したくはなかったから……。
「……でも……。どうして、あたし……」
「それはね……。きっと、木綿花が“女の子”だから……。母子家庭で生きて行く上で、木綿花が傷つく事がイヤだったんだよ」
「だって、それは、慎太郎だって同じでしょ!?」
「違うよ。ボクは“男の子”だから」
 これが、慎太郎の出した結論だ。
「ボクは、家族の中でたった一人の“男”だから。ボクに出来る事は、周りの強風から木綿花とお母さんを守る事。強くなって、どんな風も防げるようになる事」
「……慎太郎……」
「……って、“おじさん”がいなかったら、気が付かなかったかもしれないけど……」
 とペロリと舌を出す。
「“おじさん”?」
「うん。ボクが困ってると現れるんだ。グレーのスーツにグリーンのネクタイでね……」
「“足長おじさん”みたいね」
「……だね」
 頷いた慎太郎が、
「……帰ろ、木綿花……」
 立ち上がり、右手を差し出す。
「……あたし……パパとママに……」
「“ごめんね”って言うんだよ」
 一番“勇気”の要る言葉。木綿花が黙って頷く。
「……ねぇ、慎太郎……」
 手を繋いで降りる土手、木綿花が小さな声で言った。
「……お嫁さん。なれなくなっちゃったね……」
「……そうだね……」
「……慎太郎のお嫁さんに……なりたかったな……」
 淋しそうに木綿花が微笑む。
「一緒だよ」
 お嫁さんになっても、ならなくても……。
「ボク達、“家族”じゃん」
「……そうだね……」
「……そうだよ……」


 ――― チューリップが散る季節、淡い初恋がふたつ、胸の奥でキュンと鳴いた。