はっぴぃにゅういやぁ
振り袖を着る
こんにちは、エミィです。
私はいま、カタログを眺めています。
ふ・り・そ・で、です!
「このような民族衣装があったのですね!」
「しかしお嬢さま、お値段が大変お高くありますぞ」
「どうしてなのかしら? 日頃は着ないから? つくることは、出来ないのかしら?」
つるつるのカタログからは、その形はどうにも把握しきれません。胸元で交差した布といい、垂れ下った袖といい、とても不思議な形をしておりますわ。素材もつややかで、うつくしい模様がきらきらと輝いています。
「それにしても、サイズの表記がありませんわね」
「試着も大変そうでございます」
「一体、どうなっているのかしら? ああ、一度でいいから、着てみたい!」
さきほどポストに年賀状を出した帰りに見かけたのです。
幾人もの女の人がそれを着ていたので、思わず声をかけてしまいましたわ。一体、その服は何なのですか、と。するとそのうちの一人が、教えて下さったのです。この国の、民族衣装だと。
呉服店の前で無料カタログを見つけることが出来ましたけれど……。
うーん、とても、買えそうにないですわ。
「お嬢さま、お言葉ではありますが、こちらへ来るとき、我々の国の礼服さえほどいたこをお覚えでございましょうか……」
「ええ、ええ。言いたいことはわかりますよ。我が国の礼服で新年を祝わないのだから、高価な他国の礼服を着る必要もないということでしょう? でもね、カンカン。とってもきれいよ」
「そうでございますが、お嬢さま」
「初詣、なのですよ……」
何とかならないものかしら?
私はうんうん唸って、ようやく一人の人物へ行きつきました。
いつもいつも、まるで魔法のように色々な衣装を持ってきてくれる、山田太郎殿ですわ! 私はすぐにケータイをつかみ、連絡を取りました。
そして、3時間後。
「ふっふっふ」
「まったく、知恵の回るお嬢さまでございますな!」
姿見の前で、思わずポーズ。
うんうん、良いではありませんか。
山田殿が貸して下さった振り袖は、どうやら本来の形とは違うビギナー向けのようですけれど。それでも試着に1時間かかったのですから、これで充分ですわ! 本格的なものは、一体、何時間かかるというのでしょう。この国の人たちが、たまにしかこの服を着用しない理由が、なんとなくわかったような気がします。
「どうかしら、カンカン?」
「もちろん、お美しくありますぞ、お嬢さま!」
そう言うカンカンは、相変わらずすっぽんぽんの、真っ黒黒。
なんだか、つまらないですわ。
私はタンスから余り布を引っ張り出し、それっぽい柄のものを見繕って、簡単な裁縫を始めました。カンカンは少し驚いたみたいですけれど、驚いているうちに、完成ですわ。
「はい、カンカン」
「な、なんですかな、お嬢さま」
「せっかく新年なのですから、カンカンだって、おめかししなくては」
動かないよう指示をし、さきほどつくった簡単なベストを着せてあげました。胸元で布がクロスするように見せかけているので、ちょっとお揃いな気分ですわ。
「苦しくはない?」
「お、お嬢さま……」
「どうしたの? もしかして……かゆい?」
「とんでもございません! このカンカッカカンカーン、感無量でございますぞ!」
作品名:はっぴぃにゅういやぁ 作家名:damo