せんにちこう
絶望
この天上の世界にいると、なにが善でなにが悪なのかわからない。なにしろ、善と悪という概念がないのだから。
お呼びがかからない僕だって、一応天使だ。普通じゃないということも、わかる。
「天使というのはあんがい醜いかもしれない」
それをいうなら、神というのは……だけど、流石のシュータもそれ以上のことは言わなかった。そして昨日『この世』に生み落とされたのだった。
負の役割を担う悲しい天使たちは、僕を除いた全員――つまり11人全員が自分の境遇を好んでいない。それが神の『気付き』であり『業』でもあるが、それは悪ではなくて。
僕はみんなの悔いや憂いを聞いて、少しだけ和ませることしかできない。それも11人全員が、そして笑っていてくれれば良いと僕に言うのだった。
シュータは高見ほど『および』があるわけではなかったしそのスパンも短いから、よく僕といた。
天使を醜いと言った彼は『絶望』を司る天使で、普段は軽い感じのお兄さんだ。幸せな天使たちの集うバラ園で、本を読みながらふたりで日向ぼっこした。そこへやってきたある天使をシュータは好きになって、彼はあの世で初めて絶望したと泣いた。
僕にはその理由が分からなかった。絶望を回避できるこちらの世界で、シュータは自ら絶望に向かって飛び込んで行ったから……。高見は笑って、いつかおまえにも分かるよって言った。
だから僕にもはやく『お呼び』がかからないかなっていつも思っていた。そんなこと言ったらみんな悲しむ。でも、これもシュータと同じ切迫に思えた。
僕にお呼びがかかるということは、僕が誰からも忘れ去られてしまうことへの始まりだという事だから……
幸せな天使たちがいないなら僕は大きな声で言いたい。そこから逃げる神は、やはり醜いのではと。
『絶望』おわり