せんにちこう
たかみいが靴紐を結んでいる。
カラッと晴れていたところに、雨が降る。
そしてまたたかみいは現われて、急に髪型を変えていたりする。
「たかみい、どうして口をきいてくれないんだ?」
短くなった髪を弄りながらたかみいは困ったように笑った後で真顔になり、ゆっくりと口の端に力を込めた。
まさかほんとに喋るなんて思ってもみなくて、自分で言っといてオレは腰を抜かしそうになった。
「そうか、そろそろいいか」
う、わあ。
たかみいは乙女な見た目のくせに、オレと同じようなの太い声を発した。その言葉の意味は分からないけど。
「キミとこの世をてんびんに掛けているんだけどさ」
「なに、詩人ぶってるの」
なんとかそれだけ言ったら、たかみいはボロボロの爪をまた握り締めた。
「別に。」
遠くから、三好の呼ぶ声が聞こえてきた。
たかみいがじっとこっちを見ている。真顔のままで細い顎を突出して、また戻す。
「三好、声でか過ぎ」
「何回呼んだと思ってんだ」「えー?」
三好は次の移動教室で使う教材一式をオレの分まで抱えていた。
やばいやばい。あの先生は授業が始まる5分前から、なにかかにかの作業をさせるんだった。
「早くいかなきゃ後ろの方の席取られるぞ」
「視聴覚室涼しいからそれだけで贅沢言わないよオレは」
横目で見た。
もう行ってしまったとばかり思っていたが、たかみいは何も言わずにそこにいた。