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しらとりごう
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novelistID. 21379
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せんにちこう

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 なんだか最近、制服のズボンが短くなった気がする。
 オレの気が荒んだせいか、単純に背か足が伸びたのか。

 ウチの高校の制服はよくある何の変哲もない紺のブレザーだ。ズボンはさらにありがちなチェックにも見える薄い水色と黒の千鳥格子柄。
 中学時代が学ランだったからまあいいっちゃいいんだけど、面白味はないんだな。
 最近ではまわりの高校がこぞって制服のデザインを変えているけど、それもこの学校にも望めない。だってつまんない形の割に、3年前に改定されたばかりの制服だから。
 旧制服は黄土色のチェックのズボンだけど、先輩方のなかにはまだ好んで着ている人もいる。格好いいというデザインではないんだ。ただ、……ヤンキーっぽい人が多いから、さらに上の先輩との繋がりを自慢したいだけなのかなとか思ったりする。

「たかみい」

 オレは誰もいなくなった玄関でたかみいを呼び止めた。勝手にたかみいと呼んでいるけどこの人は仮にも先輩だ。ヤンキーでもないのに旧制服を着ている物好きな人。
 あ、でも茶髪の肩まで伸びた髪なんて、大人しそうだから気にならなかったけど、この人もそっちの人かもしれない……。

「今日も朝たかみいと玄関で会ったら、さっき雨が降りだしてびっくりしたよ」

 たかみいはゆっくりとオレに目を合わせて、こくりと頷いた。

「体育休んでたけど、具合悪いの……ですか?」

 語尾が。先輩ってのを意識するとこれだ。
 たかみいは口の端をちょびっとだけ持ち上げて笑った。王子様ってこういう感じかもしれない。そしていつの間にか解けていた靴紐を見下ろして、ゆっくりとしゃがんで結びはじめた。指が細い。

「たかみいっていつも靴紐結んでるけど、結ぶのへたくそなんじゃないかな」

 長い髪の毛の隙間から睨まれた。顎であっちいけをされたから、ごめんと言って自分の靴箱の前へ逃げる。
 どうしよう、傘がないんだった。
 ズボンをべちゃべちゃにするほど腰パンしてるわけじゃないから水溜まりはどうでもいいんだけど、ブレザー濡れるとなんか雨臭くなるじゃん。
 何気なく廊下を振り返ったけど、たかみいはもういなくなっていた。



 朝たかみいが正門の前にいないことを確認し、タイル敷きの道へと歩みを進める。

 たかみいはただ友達と待ち合わせているだけかも知れなかった。だからその時間差でたまたま会えないだけかもしれないんだけど、オレには妙に予感めいたものがあって。
 たかみいにかぎって友達と待ち合わせだなんてカワイイこと、するような気がしないんだよな。オレが見掛ける時はいつもひとりだし。

「あれ。」

 たかみいが顔を上げた。玄関の横にある窓辺から外を眺めていたたかみいはオレの声に反応したけど……すぐに視線をもどした。

「たかみい、髪切ったの……」

 肩まであった長い髪が、人並みの短さになっていた……。ふわふわの茶髪は小さな頭に頼りなくて、なんだかウリ坊をみているような気分になって来る。

「かわいいあたま」
「!!」

 すんごい顔で凝視されてしまった。泣きそうな、怒ってるような顔で。
 横に並んで外を見てみたけど、窓ガラスはススだらけで眺めがいいとは言えなかった。たかみいも狼狽を消した澄ました顔で窓の桟に指をかけた。ボロボロで、爪を噛むのが癖なのかなと思う。

「靴紐がほどけてるよ」

 たかみいはオレの言葉を無視した。
 無視したがオレの横顔をじっと見たままで、指先を隠すように手のひらを握り締めていた。

作品名:せんにちこう 作家名:しらとりごう