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タクシーの運転手 第六回

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「最初に言ったとおり、私は普通の会社員でした。…そうだと思っていました」
 含みのある言い方を彼はした。
「最初に疑問に思ったのは、残業するのが当たり前だと、上司に言われたときでした。残業代が出るわけではないのに、上の方から残業を押し付けられました」
 それはひどいですね、と相槌をうつ運転手。
「そのうえ休日返上も当たり前のような感じでした」
 はぁ、それはそれ、と相槌をうつ運転手。
「まぁ、それはなんとか耐え抜きました。このご時世、仕事があるだけでもありがたいと思っていましたから」
 そのとおりですね、と運転手。
「次に疑問に思ったのは、新入社員が試用期間中に退職していったときですね。いくらなんでも、それはおかしいと思いませんか?就職率が低下している中、そんなことがあるものかと思いました」
 運転手は頷いた。
「それから、だんだんと自分の会社に対して、疑念を抱くようになりましてね。その後も、次々とおかしなことが明らかになっていきました。有給をとらせてくれなかったり、労働組合がなかったり、福利厚生がなかったり、定年退職・円満退社をした社員がほとんどいなかったりと…」
 彼の体は震えていた。それは怒りで震えているようだった。
「さらにひどかったのは、自社製品、自社株の購入を強制されたことですね。普通の会社じゃあ、考えられないことですよね。そのとき思ったんです、ブラック企業、と」
 ブラック企業とは、従業員に劣悪な環境での労働を強いたり、関係諸法に抵触する可能性がある営業行為を従業員に強いたりして、必要があれば、暴力的強制も辞さない企業のことである。
「気づくのが遅かったです…。変だなと思ったときに、すぐに行動すればよかったんです…。そう気づいたとき、すぐに辞めようと思いましたが、なかなか辞めさせてもらえませんでした。「どこにも行けなくしてやるぞ!」などの脅しやがらせをされました…」
 彼は涙ぐんでいた。
「僕は、怖かった。その企業の脅しもそうだが、仕事をやめてしまっては、どうやって家族を養っていくんだ、と思うと、怖くて怖くて…。ただでさえ、不況だと言われているのに…。私はなかなか、そのことを家族に言い出せなかった。いつも笑顔で迎えてくれる、子どもたちを見ると、余計に…!ううっ…」
 彼は涙を手で拭った。が、次々と流れてくる涙を手だけでは押さえ切れなかった。
「それで、自殺を?」
「はい、そうです…」
 彼は泣き崩れていた。