deputy
文面は明らかに美紗への思いを強めていて、美紗の心を激しく振るわせる。
どうしよう。思いを伝えても良いのでしょうかだなんて……
初めて手紙をもらった時以来、ずっと思い描き続けて来た見知らぬ恋文の差出人。
はあと大げさにため息を吐くと、美紗は学校を後にした。
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新学期が始まり、美紗は古文の宿題をするために図書室へと来ていた。
静かなそこは古くさい匂いがして落ち着いていて、美紗は図書室が好きだった。
軽音楽部に所属する京子を待つ時は、いつもここで本を読んだりしながら時間をつぶしていた。
部活とは名ばかりで、文化祭でライブをやったり、地元のお祭りに参加するくらいで軽音楽部は本格的に活動をしている訳ではない。
京子はただベースを弾いてみたかったから。という動機だけで入部している。美紗は部活に所属している訳ではなかったが、本が好きなので読書部を立ち上げたらと、冗談半分に京子に言われた時は一瞬迷った。
結局京子の部活がある時やゆっくり宿題をした時だけしか長時間図書室は利用しないし、部活と言っても活動内容がただひたすら読書をするだけというのは、青春を謳歌する高校生にとって果たして有意義なのか。部員が集まるのか。という、美紗の冷静な判断のおかげで部は立ち上がらず、相変わらず帰宅部、暇がある時は図書室の住人のままでいた。
今日は折角時間があるのだから、宿題をやってみる。
古文は嫌いではない。丸っこい言葉遣いが耳に心地良いから。
例の恋文は古文ではないし、昔っぽい文面でも無いが、どことなく古くささを感じた。京子が60年代オタクと言っていたのを思い出し、一人机に向かってニヤケ顔を落とす。
3度目の恋文を受け取ってから2週間近く経つが、まだ次の恋文は届かない。
次は一体どんな色の封筒で、どんな事が書いてあるのか、美紗は楽しみだった。
そんな折、急に背後から影が降りて来て、美紗は振り返った。
「あっ……」
驚いた事に見上げた視線の先には、あのバスケ部のキャプテンが立っていた。
あまりに突然の出来事に美紗はたじろいだ。
にこりと笑顔になると、キャプテンは美紗の隣りの席を指差す。
「隣り、いいかな?」
「えっ? あ、はい。どうぞ……」
席などいくらでも空いているのに、何故かキャプテンは美紗の隣りを選んだ。