deputy
「見てた見てた! 絶対見てた! やだ、どうしよう! 大声で叫んでたからかなあ。恥ずかしいっ!」
両手で頬を挟んで照れたように言う京子に苦笑する。
「私達以外にもたくさん人いるんだから、たまたまこっちの方を見ただけじゃないの?」
「え~、何それ、せっかくテンション上がったのに、つまんない事言わないでよ~」
今度はむくれる京子に、美紗は呆れた。
「難しいわねえ。京子ってあのバスケ部のキャプテンの事、好きなの?」
「好きに決まってるじゃん! あんなカッコいいんだよ?」
「本当に京子はイケメンが好きだよね」
「イケメンに興味を持たないあんたのほうがおかしいのよ。あっ、ホラ。第3クオーター始まる!」
颯爽とベンチを出て行く選手達の後ろ姿を見送りながら、美紗の頭に何故かあの恋文が浮かんだ。
夏休み中は特別夏季講習が組まれていて、大学進学を希望する生徒は2年生も授業が受けられるようになっているのだが、美紗は進学希望で登校する日は多い。しかし、もし手紙をくれる相手が学校に来ないのなら、夏休みが明けるまでは手紙は期待しても無駄かもしれない。いやだが、万が一という事はある。
そもそもまた手紙をくれると約束している訳ではないから、こんな風に一人で思案しても仕方ないのだが、もうこの事がずうっと気になっていた。
せっかく先ほどまではバスケの熱気で忘れていたのだが、急に思い出してしまった。
どうして?
コート上でチームメイトに指示を出すキャプテンの凛々しい表情をじっと見つめ、美紗は小さく首をひねった。
「美紗っ! ぼさっとしてないで、あんたも応援する!」
「は、はいっ!」
京子に怒られ我に返った美紗は、反射的に立ち上がってウチワを振りかざしながら見よう見まねで応援に専念した。
応援の甲斐あってか、バスケ部は見事勝利を納め、インターハイ地区予選の決勝へとコマを進めた。
「勝って良かったねー! 次勝ったらインターハイだよ、インターハイ!」
興奮気味に京子が言うと、美紗は静かに頷いた。
何にせよ、自分の学校が勝ったことは嬉しい。
試合が終わり、応援の生徒達は体育館の外に整列していて、前の方で木陰の無い所に立っている美紗と京子は、日よけ代わりにうちわをかざして先ほどの試合を振り返っていた。