deputy
「私は今、あなたの手紙を読んでいますよ」
一方通行のこのヘンテコな恋文に、美紗は期待を寄せていた。
きっといつかまた手紙が入っている。
そう確信させる何かがあった。
別に自室で返事をしたからと言って相手に聞こえるはずもないのだが、美紗は答えずにはいられなかった。
そしてまた、手紙の相手を一人想像する。
いつか目の前に現れてくれるのだろうか?
もし、現れたら何と言おう?
出会った事もないのに、美紗は恋心にも似た感情を手紙に対して抱き始めている。
「京子に言ったらきっと反対されるんだろうなあ」
キイと椅子を鳴らし、美紗は今度こそ捨てられないように鍵の付いた引き出しに、2通目の恋文をそっと仕舞った。
****
夏休みに入ってすぐ、美紗達はバスケ部の応援の為に市内で一番大きな総合競技場の中にある、体育館へとやって来ていた。
同じ敷地内の野球場では野球部の試合も行なわれている。
右も左も人だらけで、スポーツに疎い美紗でもバスケ人気がなかなかのものだと分かった。
「キャー! キャプテン! カッコいい~~!!!」
隣りで京子が大はしゃぎだ。
いや、京子だけではない。体育館内は応援合戦で、敵味方どちらも負けじと大声でディフェンスだのオフェンスだの叫んでいる。
日差しに直接当たらないとはいえ、屋内は熱気がこもって妙に息苦しい。
美紗は京子が準備よく持って来ていたウチワでパタパタと首筋を仰ぎながら、先ほどから京子が熱を上げているバスケ部のキャプテンを見下ろした。
スラリと長い手足に爽やかな甘い顔立ち。3年生の先輩達の中でも一、二を争う人気者だと聞いたが納得だ。
第2クオーターが終わった所で、選手達が自陣ベンチへと戻って来る。
えっ?
ふと、そのキャプテンと目が合った。
美紗は驚いて辺りを見回し、再びキャプテンに視線を戻す。しかし既にキャプテンはタオルを頭から被り、スポーツドリンクを喉に流し込んでいた。
……気の所為よね。だってバスケ部のキャプテンなんて知らないし、きっとこっちに知ってる人がいたんだ。
そう一人で納得していると、京子が突然美紗の肩を掴んで声を上げた。
「ねえねえ! 今ベンチ戻って来る時、キャプテンこっちの方見なかった!?」
「え? あ、そう?」