deputy
「私はバスケ、かな?」
「どうせ日に当たらない屋内のスポーツだからでしょ?」
「あはは」
京子に突っ込まれ、美紗は笑う。
「じゃあ京子はどっちがいいの?」
「バスケに決まってんじゃん! あんた、野球部なんて皆坊主よ? 全然お洒落じゃない~。それにバスケ部の方がカッコいい人多いし~」
「京子、選ぶ動機が不純」
「屋内ってだけで選ぶ人に言われたくないんですけどー」
ケラケラと楽しそうに笑う京子を見ながら、美紗は空を見上げた。
高い空は水色で、積乱雲の白が良く映えていた。
もうすぐ夏休みだ。
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美紗は緊張した面持ちで机に向かっていた。
目の前には下駄箱に入っていた若草色の封筒。まだ封は切られていない。
「すう……はあ……」
たった一枚の手紙を空けるのに、大層勇気がいるものだと深呼吸を一度終えた所で自分を笑う。
「よし」
小さく頷くと、ペーパーナイフで封筒を丁寧に開けた。
中には封筒と同じ若草色の便せんが2枚入っていて、一週間前と同様の几帳面そうな綺麗な字で詩のような恋文が綴られていた。
あなたは今、何をしているのでしょう。
わたしは今、あなたを想っています。
目の前の窓を風が揺らす度、あなたはどこにいるのだろうかと思いを馳せます。
笑っているのか、怒っているのか、泣いてはいないだろうか、と。
こうしてまた独りよがりな手紙を送りつけるわたしに、呆れているのでしょうね。
ですがわたしは臆病なのです。
明日もまた、あなたの事を想っていいですか?
独りよがり。
確かにその通りだ。この手紙には書いた本人の一方的な美紗に対する感情しか書かれていない。
美紗の気持ちはないがしろにされている。
もし、美紗が手紙を受け取ることを拒否したなら、この手紙の主はどうするつもりなのだろう? 下駄箱の脇にあるゴミ箱に投げ捨てたりしたら、見つけた本人は卒倒してしまうのではないだろうか?
それほど、この短い文面から美紗への思いが強烈に伝わって来るのだ。
しかしラブレターとは本来独りよがりなものだ。こちらの気持ちを知ってもらうのだから、自分の思いの丈を命一杯ぶつけるしかない。
自分でもラブレターなど書いた事が無いのだから、手紙にある独りよがりという字面を見ても、美紗は何とも思わなかった。