deputy
美紗は手紙の相手への好奇心が止まらなかった。
学校の下駄箱に入っていたのだから、同じ学校の生徒であることは間違いないだろう。
同級生だろうか、先輩だろうか、それとも後輩だろうか? 背は高いのだろうか、普通くらいなのだろうか、それとも小柄なのだろうか? 髪型は? 顔は? 性格は?
美紗の想像はどんどんとふくれあがった。
「美紗ー! いつまでお風呂に入ってるの? ふやけるわよ!」
「あっ、はーい! もう出まーす!」
風呂場でかなりの時間長考していたらしく、母親から嗜められて我に返った。
名前が無かったのは残念だが、それは返事が欲しいという訳ではないからだろう。手紙の最後には一方的に思いをぶつけるわたしを許してくださいと書かれていた。
相手の事を好きだと思う気持ちは犯罪ではない。京子はもしかしたらストーカーのような相手と思って、美紗を守ろうとしてくれているのかもしれないが、美紗にはどうしてもあの手紙をくれた人物がそういう事をするようには思えなかった。
何故かは分からないが、そんな気がしたのだ。
あれから一週間後、美紗は下駄箱の中に若草色の封筒を見つけた。
瞬間的にあの手紙の相手だと思い、隣りで靴を履き替えている京子に気付かれないように手紙を急いで鞄に仕舞う。
美紗の胸は踊っていた。
早く読みたい。
どんな事が書いてあるんだろう。
帰り道、京子が話しかけて来る内容に適当に相づちを打ちながら、早く家に帰って手紙の封を開けたくて仕方なかった。
「ちょっと美紗、聞いてんの?」
「聞いてるよ」
「……じゃあ美紗はどっちがいいと思う?」
「え?」
「ほら聞いてない!」
「ごっ、ごめん」
美紗の空返事に気付いた京子に怒られながらも、やはり心は手紙に向いていた。
「えっと、なんだっけ?」
急いで取り繕うと、京子は呆れたように肩をすくめた。
「だから、野球部とバスケ部、どっちがいいと思うかって聞いたの」
「あ、ああ」
今、美紗たちのクラスの女子の間では、予選を勝ち上がっている野球部とバスケ部どちらの応援に行くかで意見が分かれている。
夏休みを目前にして、学校側としては力を入れて運動部の応援をするのだ。好きな方に行けば良いと言いたい所だが、クラス毎に団体行動をしなければいけないので明日のHRで決定することになっていた。