deputy
「本当にありがとうございます! 好きだと言ってもらえて、すごく嬉しかったです! それからーーー卒業おめでとうございます! これからも頑張ってください! 私、先輩の事応援してますから!」
浜岡はバスケ推薦で大学に進学する事が決まった。美紗は、心の底から浜岡を応援したいと思ったのだ。
「うん、こちらこそ。美紗ちゃんも頑張ってね。それから、何か困った事とかあったら、いつでも相談しに来なよ。俺は君の力になりたいし……あ、これもまた自分勝手だな」
最後まで優しい浜岡は、おどけたように笑って手を振ると今度こそ美紗の前から去って行った。
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気付けば美紗は走っていた。
先ほど駆け抜けて来た道を、そっくりそのまま戻って行く。
廊下を走り、階段を上り、古くさい匂いのするドアの前で一度立ち止まり、呼吸を整えてから静かに開けた。
「杉田先輩!」
入室してすぐのカウンターに目をやると、そこには司書の先生が座っていて、美紗を見て微笑んだ。
「どうしたの? 杉田君なら、さっき帰ったけど」
「あ、ありがとうございます。失礼しました!」
直ぐさま美紗は図書室を出た。
帰ってしまう。
このままでは、手紙の事を何も言えないまま、杉田と会えなくなってしまう。
焦燥感に駆られながら、とにかく下駄箱を目ざす。
3年の下駄箱を順に覗いて行き、誰もいないことを確認すると自分の下駄箱へと急いだ。
「あっ」
下駄箱を開けた瞬間、美紗の体は驚きで溢れた。
そこにはえんじ色の封筒が、やけに大人なしく居座っていた。
急いで封筒を手にとり靴を投げ捨てるように地面に置くと、急いで封を切る。
定規もペーパーナイフもないため、ビリビリと実に乱暴に開けて行った。
中には封筒と同じえんじ色の便せんが2枚入っていた。
あいつは正直者だから、きっと今までの手紙が代筆だった事を明かすだろう。
それでもどうか、あいつの気持ちを分かってやって欲しい。
俺みたいな手紙を書くのに向いていない人間に代筆させてでも、気持ちを伝えようとしていたのだから。
代筆をしていた俺がこんな事をいうのも何だが、あいつは信頼出来るやつだ。
話した事も無い、年下相手に本気になって、子どものように目を輝かせながら見かけた時の様子を語るあいつを、どうか受け止めてやって欲しい。