deputy
手紙を書いていた人物と、浜岡は別人だったのだ。
そうか、だから何かおかしいと思ったんだ……
急に美紗の心が騒ぎ出す。
ドクドクとこめかみを脈打つ心音に、体を強ばらせた。
「あの、その……手紙を代筆していた人って?」
緊張している美紗の声はいつもより嗄れていた。
「えっと、杉田って言う、図書委員長やってたヤツなんだ……あいつが書いてくれた手紙を俺も読んで、それから君の下駄箱に入れてた」
杉田、先輩?
図書室でいつもカウンターに座っている、あの眼鏡の男の顔を思い出した。
数学の解けないでいた問題を教えてくれて、今朝は危ない所を助けてくれて、ついさっき図書室で怒られた。
ドン! という衝撃が美紗の体を駆け巡る。
「あいつ理系だし、文章力があるって訳じゃないけど俺より全然ましだしさ。それに、あいつは信用出来るヤツだから……ごめん。大事な手紙なのに、人に書かせたりして、俺って最低だよな」
申し訳なさそうに言う浜岡は、きっと嘘が嫌いだから正直に美紗に代筆恋文の事を白状したのだろう。
誠実な浜岡は本当に素敵な男性だ。
しかし、美紗の心はあのどこかぎこちない文を綴ってくれた相手に会って話したいという思いで溢れていた。
杉田に会って、直接お礼が言いたい。
楽しい手紙を書いてくれて、ありがとう、と。
「先輩は最低なんかじゃないです。代筆を頼んでまで、私に気持ちを伝えたいって思ってくださったんでしょう? 先輩は優しい人だし、誠実な人だと思います」
「あ、ありがとう」
浜岡は悲しそうに笑うと、頭を掻いた。
「俺は、美紗ちゃんの事が好きだ。でも、付き合って欲しいとか、そういう事を求めたいんじゃないんだ……代筆してもらった手紙じゃなくて、直接、君に好きだって言いたかっただけだから……だって君は、俺の事を好きじゃないだろ?」
美紗は浜岡の事は好きだが、そういった関係を求めるような好きではない。浜岡の男らしさは清々しい程だ。
「最後まで自分勝手でごめん。勝手に手紙を送りつけて、勝手に告白して……君と話せて楽しかった。それじゃあね」
そう言って美紗に背を向けた浜岡に、慌てて声をかける。
「先輩! あのっ!」
足を止め、こちらを振り返る浜岡に、美紗は頭を深々と下げた。