deputy
先輩達の卒業式に、本当にいやがらせのような事故死をするところだった。
そしてもう一度、心の中で杉田に感謝した。
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卒業式はつつがなく終了し、3年生達は部活の後輩や先生、友人らと高校生活最後の交わりを思い思いに楽しんでいた。
京子は軽音楽部の先輩達とお別れ会をするとかで、一足先に学校を出た。
誰もいない図書室で、美紗は約束の時間が来るのをじっと待っていた。
丁度美紗がやって来た時、司書の先生が少し席を外すから見ていてくれと言付かったおかげで、広い図書室には美紗一人きりだ。
手元には大好きなアンデルセンの童話集。
開いてはいるものの、一文字も読んではいない。
遠くに人々の賑やかな声が聞こえ、美紗は切なくなった。
来年は自分も卒業だ。進路など今はまだ分からないが、笑って卒業出来たらいいと思う。
浜岡の姿を体育館で見かけた時、いつものようににこやかな顔をしていた。自分も、あんな風に卒業したい。
腕時計に目をやると、時刻は12時50分を過ぎた所だった。
もう、待っているのだろうか?
早く先生に戻って来て欲しいとそわそわし出した頃、ガラガラと入り口の扉が開く音がした。
帰って来たと顔を上げると、入って来たのは先生ではなく、今朝美紗を助けてくれた杉田だった。
美紗の顔を見て一瞬驚いたような表情をした。
「あ、先輩……」
今朝の事をもう一度謝って、感謝を伝えようと立ち上がると、杉田が先に話し始めた。
「こんな所で何をしているんだ? 先生は?」
「あの、えっと、先生はさっきまでいらしたんですけど、今少し外していて、見ていてくれと頼まれたんで」
眼鏡の向こうから美紗を見据えると、杉田はチラリと腕時計に視線を落とした。
「後は俺が見ておくから、お前はもう帰れ」
「え、でも……」
「お前は図書委員じゃないだろう?」
「そうですけど」
「ほら、先生が戻ったら閉めるから、早く帰れ」
眉間にしわを寄せてカウンターの中に入って椅子に座った杉田を見届けて、美紗は頭を下げた。
「今朝は本当にありがとうございました。先輩は命の恩人です」
「別に」
数学の答えを教えてくれた時と同じようにぶっきらぼうにそう言うと、杉田は不機嫌そうにカウンターの下に置いてあった本を取り出して読み始めた。
本当に本が好きなんだな。