deputy
正直浜岡という男がどういう人間なのか、胸を張って言える程知ってはいない。だが、彼は真面目で優しくて、人を陥れたりするような人間ではないと思う。
この手紙の事は京子にはずっと内緒にしてきた。今更告白を聞くべきか、京子に相談する訳にもいかなかった。
珍しくこの封筒の2枚目の便せんにも文字が書かれていて、そこには
『卒業式の日、午後1時 裏庭の池の前で待つ』
と書かれていた。
卒業式は来週。
美紗はそれから、眠れない夜を過ごした。
朝から何度も鏡を覗いては情けないため息を漏らす。
寝不足が続いたおかげで、美紗の顔はそれはもう酷い有様だった。
しかしこればっかりは化粧でも隠しようがなく、諦めて早めに家を出る事にした。
学校への道すがら、美紗は初めてあの不思議な恋文をもらった日から今日までの事を思い返す。
この一週間、飽きもせず繰り返し考えていたのだが、何かしっくりこない。
浜岡はカッコいいし優しいし、本当に手紙の相手が彼ならば間違いなく美紗を大切にしてくれるだろう。
確証はないが、確信はある。
ふっと右手を見つめ、初めてもらった手紙の文を呟く。
「あなたの肌は百合の花の如く、白く香しい……か」
実際本人を目の前にそんなキザな言葉は言えないだろうが、手紙やメールというものは不思議なものだ。普段言えないような事も、スラスラと書けてしまう。
美紗の考えはまとまっていなかった。
浜岡の事を好きかと尋ねられれば、恐らく好きだと答えるだろう。嫌いになる要素が今の所見当たらないので、嫌いになりようが無い。
だが、告白されたとして果たして付き合うという段階に行けるのかと言うと、どうも思考に間が開いてしまう。
あーもう、どうしたらいいのよ。
あんな熱烈な恋文をもらっていて、自分でもその恋文が下駄箱に入っているのを待ちわびていたはずなのに、調子が狂う。
思春期に良くある、恋に恋している状態で、かろうじて美紗はそのギリギリ手前で踏みとどまっているのかも知れない。
周りの音も聞こえない位、美紗は集中して考えていた。
軽く頭を左右に振り、足を一歩踏み出そうとした瞬間だった
「わあっ!?」
美紗の腕を、何者かが強い力で引っ張った。
「きゃっ!?」