deputy
あんなラブレターをくれているのに、こんな風に普通に接している浜岡は女性慣れしているように感じる。
戸惑う美紗の答えを、浜岡はじっと待っている。
「まだ、決めてません……成績も普通だし、国公立で頑張ったら行けそうなレベルの文学部のある大学にしようかな、と」
正直な気持ちを答えた。
すると浜岡は急に笑い出した。もちろん図書室なので控えめに笑う。
「はははっ。美紗ちゃんは面白いね。そこまで正直に答えなくてもいいのに、真面目だなあ。でもま、普通そうだよな。俺だって2年の頃は大学受験なんて考えても無かったし、バスケばっかりやってたしなあ……って、バスケばっかりやってるのは今も同じか」
そしてまた笑う。
屈託ない浜岡の様子に、美紗はほんの少し鼓動が早まった。
浜岡は優しい。明るいし、話していて楽しい。
もし本当にあの手紙の主が浜岡なら嬉しいかもしれないと、初めて思った。
床に置いてあった鞄の中から、バイブレーション音が微かに響いて美紗は急いで携帯を取り出した。
メールは母親からで、今日の夜に出かけるから早めに帰って来て欲しいとのことだった。
「あの、先輩。母が出かけるそうなので、これで失礼します」
なるべく音を立てないように立ち上がると、美紗は深々と浜岡に頭を下げて荷物を鞄に詰め込んだ。
「そっか、帰り、一人で大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございます。それじゃあ、失礼します。受験勉強頑張ってください」
「うん。気を付けてね」
浜岡の気遣いに微笑み、美紗は軽く会釈をして図書室を出た。
浜岡先輩って、いい人だなあ。
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最後にひとつだけ、わたしのわがままを聞いてください。
揺れる福寿草のように鮮麗なあなたの笑顔はわたしの太陽。
冬枯れの林のようなわたしの冷めた胸を暖めてくれる。
愚かで臆病なわたしの、告白を聞いてください。
早春の頃、わたしのすべてを伝えさせてください。
自分勝手なわたしをどうか許してください。
鳶色の封筒に入った2枚の便せんを折りたたみ、美紗は両手を強く握りしめていた。
とうとう来た。告白という、衝撃的な二文字が入った恋文だ。
もうすぐ3年生は卒業。
浜岡は、卒業前に美紗に想いを告げてくれるという。
「先輩……」