deputy
美紗が入学した時からずっと図書委員をやっていて、本を借りる時に顔を会わせる程度で、もちろん会話などした事はない。本が好きなのか暇なのか、美紗が図書室に出向く時はいつもカウンターに座って本を読んでいた。
見た目通り理系らしく、物理や天文学関係の本を読んでいる事が多いようだったが、興味がないのでそれ以上の事は美紗には分からない。
しばらく書棚の海を見つめ、カウンターを振り返る。
そう言えば、浜岡に初めて声をかけられた時もカウンターに座っていて、確かバスケ部顧問からの内線を浜岡に知らせていたのも杉田だった。
もう2年も図書室に通ってるのに、交わした言葉の内容は浜岡より薄い。
借りたい本と図書カードを差し出すと、図書カードに判子を押して本のバーコードを読み取り返却日を告げて本を渡す。美紗はそれに簡単に返事をして本を受け取って去って行く。
それだけだ。
だからつい今しがた杉田に教えてもらった数学の問題をじっと見つめ、何だかおかしな気持ちになった。
浜岡先輩は杉田先輩と知り合いっぽかったな。全然タイプ違うけど。
浜岡の人懐っこい顔を思い浮かべていると、ポンと肩を叩かれた。
「美紗ちゃん」
「浜岡先輩?」
本人が現れ、困惑する美紗。
すぐに居住まいを正して頭を下げる。
「お疲れ様です」
「うん。試験勉強中?」
「はい、数学苦手で……」
優しい浜岡の声に何故かほっとする。
「数学かあ。俺も文系だから数学苦手なんだよなあ」
困ったように言う浜岡に、美紗は首を振った。
「だ、大丈夫です。先輩も試験勉強ですか?」
「まあ、俺達の場合受験勉強だけどね」
「あ、そうですよね。先輩は大学受験されるんですか?」
自然に美紗の隣りに腰掛けると、浜岡は自分が持って来ていた参考書やらノートを机に置いて首を傾げた。
「一応ね。バスケ推薦の話しもあるけど、まだ悩み中って感じかな」
全国3位になった高校でキャプテンを勤めたほどだし、MVP選手にも選ばれたらしいのでかなりの実力者だろう。欲しがる大学はいくらでもあるはずだ。
「もうすぐ12月ですけど、大丈夫なんですか?」
「だよな。時間無いんだけど決められないっていうか……美紗ちゃんは大学どこ受けるか決めてるの?」
「え? 私、ですか?」
その質問で美紗は浜岡が自分を好いてくれている相手かも知れないと、急激に思い出した。