deputy
「気に入る気に入らないは相手を知って初めて成立する感情でしょうよ。何となく気になったら話してみる。話してみて、相手を知って、好き嫌いに別れるんでしょ?」
「そうだけど、話した事もないのに……」
「あー、あれかも。浜岡先輩図書室に本を良く借りに行くんでしょ? だったらあのきっしょいラブレターも、案外先輩からかもね」
「えっ!?」
美紗は京子に言われて、初めて手紙と浜岡という人物を繋げた。
なるほどそうだ。もし、浜岡が美紗の知らない間に好意を持ってくれていたのなら、自分を明かさない手紙の内容とも一致する。
そして、一番最近もらった手紙には思いを伝えたいような気持ちが綴られていた。
浜岡が美紗に声を掛けて来たタイミングからも、その事は違和感無く納得出来る。
「あ……そう、なのかな?」
「浜岡先輩B組なんでしょ? 確か3年のB組って文系クラスじゃない? だったらあの古くっさい手紙もあり得る。内容覚えてないけど」
京子はナルシストならもう興味無い、幻滅だと言い捨てて、さっさとお菓子を買いに購買へと席を立った。
一方、一人残された美紗は心の中で何度も言い聞かせていた。
そうか、あの手紙をくれていたのは、浜岡先輩だったんだ……あの時、最後に言おうとしてたのは手紙の事だったのかも知れない。
そっと顔を上げて浜岡の方を見る。
友人と楽しそうにしていて、相変わらずカッコ良かった。
もし、本当に手紙の相手が浜岡ならーーー
しかし美紗は手紙を待っていた時のように心が躍らなかった。
誰か分からないまま、秘密めいていたままの方が、もしかしたら良かったのではないか。そんなふうに思えてしまった。
あの手紙はまた下駄箱にいつか入っているのだろうか?
そして今度はどんな事が書かれているのだろうか?
想像しても、美紗はそれ以上の感情を持てなかった。
来た。
食堂で、浜岡が手紙の相手かも知れないと気付いてから一月以上経ったある日、下駄箱に封筒が忍ばせられていた。
浅葱色の封筒を手に取り、京子に気付かれないように鞄にねじ込む。
「ねえねえ、マック寄って帰ろ?」
「うん、いいよ」
来月に開催される地元のイベントに、京子達軽音楽部は出演することが決まっていた。