deputy
「ありがとう。ところでさ……えっとーーー」
浜岡が何か言おうともごもごしていると、図書室カウンターの内線が鳴った。そしてすぐ側に座っていた図書委員が電話に出る。
「おい浜岡、顧問が探してるらしいぞ」
「あっ、やべ。じゃあ、美紗ちゃん。またね」
「はい」
内線を受けた図書委員は浜岡の知り合いらしく、静かに浜岡に告げると読書を再開した。
浜岡は素早く立ち上がり、美紗に爽やかに手を振ると図書室を出て行った。
びっくりした……浜岡先輩、かーーー何だったんだろう?
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図書室で浜岡と話して以来、廊下や食堂で浜岡と出会う事が多くなった。
いや、もしかしたら今まですれ違っていたが気付いていなかっただけかも知れない。
浜岡がこちらに向かって笑いかけてくれるものだから、京子と一緒にいる時はそれはもう、大変だった。
そして今も、食堂で京子とご飯を食べている所へ浜岡が友人と二人連れでやって来て、爽やかな笑顔をくれて去って行った所だ。
「ちょっとお! 浜岡先輩、マジカッコいいんですけど!? 何で今までノーマークだったんだろ、私!」
「さあ?」
「てかさあ、キャプテン、美紗の事見てるっぽくない?」
京子に言われ、ドキリとした。
「そう、かな? この間偶然図書室で会って、少しお話したからじゃない?」
「ええ~~~~っ!? ちょっとどういう事よ、それ!」
「京子が部活の日、図書室で宿題してたら先輩が来て、ほんの一瞬話しただけだよ」
「何て話したの!?」
美紗に食いつくように顔を寄せる京子を引き離し、美紗は思い出しながらあの日の事を語った。
語ると言うほどの内容でもないのだが、浜岡がやってきて隣りに座り、自己紹介をしてインターハイの事を話して、内線で呼び出されて走っていなくなった。という、しごくつまらない物語を教えると、京子は大げさに机につっぷした。
「何それもーう! それって先輩あんたの事超気になってんじゃん!」
「ええっ!? どうして!?」
「だって普通、図書室行く時にたまに見かけるからってだけで、相手に声掛ける?」
心底つまらなさそうに京子は言うと、離れた席で食事を摂る浜岡をチラリと見て美紗を見た。
「でも、全然知らない人なのに」