ブローディア夏
「まだ残ってる奴、いたんだな」
石間は教卓に上半身を投げ出して、俺を上から見下ろした。ダルそう。
「石間たちはやけに賑やかだったな」
「あ、聞こえてた?」
何故か石間は嬉しそうに寝返りをうつ。楽しかった会話なんかを思い出しているんだろう。
「木野はなにしてんの、ひとりで」
「ひとりで悪かったな」
「あっ。」
嫌味が出た。
石間は気付いていないのか、なんか落とした? なんて机の下を覗いたりして。
「もう夏休みだな」
「俺、休み中も図書室割り当てられてるんだ。最悪」
「図書室って休み中も開いてんの」
「地味にね」
石間は海にでも行って焼いたりするのかな。
俺はどうせ真っ赤に腫れるだけだから焼くのは諦めてる。年中白くて結構だ。
「木野」
「なに」
図書委員の通信なんか書いて、誰か読む奴いるのか謎だ。
鉛筆の線をサインペンでなぞりながら石間の声を聞く。水色の線はコピーしたら見えなくなるんだってさ。
「好きだ」
石間の声は、低い。
そんなんで好きだなんて言われたら、女の子は堪らないだろうな。
「木野、」
「あ、ごめん。なんか言った?」
「………。」
あとは題名を清書すれば完成だ。
顔を上げずに黙々と作業していたせいで、俺はやらかした。
「今なに考えてんだ、木野」
「えー? だから、そんな声で好きだとか言われてえなって考えて、……て……え、うわあ!」
自分の発言にビビって、持っていたペンと定規をぶっ飛ばしてしまった。
石間が、困ったように笑って、俯いた。引いたか。引くよな。なに俺、調子乗ってんだ。
「木野、まじ掴めねえ」
だろうな。
「好きだ」
吹き込まれた耳が、熱い。掴めないのは石間も同じだ。