ブローディア夏
偶然、玄関脇の自販機で会った。
俺はいつもペットボトルに母さんの麦茶を入れて来るんだけど、体育の後だけはジュースを買う習慣がある。
そういえば石間は、いつも午後茶の黄色い奴をかじっている印象がある。
「あちいな」
「天気良過ぎるのも困るな」
扇ぐ下敷きの風に乗って、汗の匂いに混じった香水の香りが俺まで届いた。
なんていう香りなんだろう。俺は香水なんて付けないから、よく分からない。カタカナなんて全部一緒に見える。
「木野、香水ダメ?」
「なんで」
風がやむ。
ただ単に暑いからってのもあるが、石間から吹く温い甘い風は、悪くなかった。
「目を逸らしてるから」
「嗅いでたんだよ。香り」
へえ、と呟いた石間が取り出し口から黄色い紅茶を二つ取り出して、片方を俺の腕に押しつけた。
「恥ずかしいことも平気で言うね、木野は」
「………。」
冷たい紅茶で体は冷えても、顔に集まった熱はどうしようも無かった。
ゴミ箱に突き刺さった黄色いパックに刺さるストローの先が、かじられてボロボロになっていた。
その脇に、ストロー口にストローを押し込んでただの四角い箱になった黄色いパックを乗せる。
「石間、先生が……」
「あっはは、あ、木野」
盛り上がっている輪を乱すのは気が引けたが、簡潔に「これ先生から」と告げて、退散した。
あれ、何だろうな。
女教師から手渡された綺麗な花柄のショッピングバッグ。
そのなかに隠された女教師と石間とのやり取りを邪推して、落ち込んだ。
「みろよ、これ」
予鈴の直前、石間が教卓にもたれて、俺の机の上で、さっき穴が開くほど睨みつけた記憶のある華やかな袋を逆さにした。
中から出て来たのは……煙草が二箱。
……煙草?!
「母親がさ、間違って俺の鞄に入れちゃってたんだよ」
「なんで……。」
「なんで先生がってか。まあアイツに見つかってさ、でも俺実は模範生徒だから、見逃してくれたってことかな」
「ていうか」
「ん?」
なんで俺に報告するんだよ。
石間はゆっくりと袋に煙草をしまって、背を向けた。輪の中に溶けていく。
「口実だ」
話しがしたいのは、俺のほうだけじゃないらしい。