ブローディア夏
音楽の時間、リコーダーを吹く石間に釘付けになっていた。
そんなに必死そうに吹いてたかよと周りの友達と笑い合っている石間は気付いていないのか。俺の視線に。
そうだよな。いつも女子から目で追われている石間が今更、地味なクラスメイトにちょっとだけ熱心に見られたくらいでどうとも思わないか。
今の俺なら石間の身長が180cmから0.5cmどころか何十cm小さかったとしても、直ぐに人混みから見つけられそうな気がする。
無理に後ろを振り向かなくても視界に入るようになった石間は、不思議なやつではあるが義理堅く、真面目らしいことがこの数日で分かった。そりゃ人気があるのも頷けるってものだ。
「木野って、なんか楽器やってた?」
「別に」
用がなければ並んで歩くこともない関係は相変わらずで、俺は彼の友達未満のクラスメイト。
そして俺は石間と、友達にはなりたくないと最近になって考えはじめていた。
「木野はリコーダーもギターもそつなくこなすからさ、習い事とかやってんのかと」
「俺習い事したことないから」
へえ、とびっくりして見せて、個人演奏のテストを終えた石間が俺の脇をすり抜けて席へ戻っていく。
友達とワイワイ騒いで、先生に注意を受けて。
そう。友達になりたいわけじゃ、ないんだ。
隣りに並んだこともないくせに、石間のリコーダーの口が歯形に削れてること、知ってたりする。