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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア夏

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 俺が図書委員になったのは、ジャンケンで最後まで負け続けたからだ。

 週に一度、昼休みが潰れる。
 冬はともかく夏は最高。直接日が入ることがなく風通しも良好で、どこかヒンヤリしてる。そんな中で静かに昼休みを過ごせるのだ。
 3年生が数人訪れて受験勉強していくくらいで、貸出の受付だなんて最近した覚えが無いくらいに暇な委員会なんだよね。


「木野」
「石間……珍しいな」

 騒がしい類いの奴等がこの部屋に用があるとしたら、先輩方の卒業アルバムか補習用に夏休みの推薦図書か。石間が補習を受けるなんて話は聞かなかったから、すると卒業アルバムか。
 他人のアルバムを見て何が楽しいのか俺には分からない。

「どれを借りるんだ?」
「いや、別に興味ないし」

 なんだよ。
 たしかに、たまに冷やかしに来るだけって奴もいるこたいるが。

「じゃあ何だよ」
「暇だから」

 暇、か。
 友達のだれも伴わずに歩くのがめずらしい石間。

「図書室に来たってもっと暇するんじゃないのか?」
「そうかもな。なんかお勧めない?」

 そうかもって。
 でもまあ……これかな。

 俺は例の夏休み推薦図書を引っ張り出した。

「補習組に無駄にグダグダ言われるのが勿体ない逸品だよ」
「ははっ」

 石間が静かに笑う。
 俺の手から薄い本を受け取って、静かに出て行った。まだ貸出し手続きをしていないのに。

 でも、ほんとにお勧めだったんだ。
 楽しい友達との会話と比べれば、そんな貴重な時間を削ってまで読むほどのものかはわからないが。

 一人になる言い訳くらいには、役に立つだろうと思う。


「10段階でいうと、まあいいとこ"7"ってとこかな」
「つまり微妙ってやつか」
「うん」

 次の日、石間は図書室でなく俺の席に例の夏休み推薦図書を返しにきた。
 奴も貸出し手続きをしていないことを思い出したらしい。ていうか、ほんとに読むとは思って無かった。

 教卓に寄りかかって本を差し出しているだけなのに、長身のこの男がやっているだけで様になるんだな。そういうのはヘンだ。
 それに腰パン軍団にいるくせに、本を借りたという恥ずかしいっぽいことを教室の一番目立つところで公表していいんだろうか。
 一目置かれているやつは違うのか。
 落ち着いたトーンの石間の低音は、教室に溶け込んでいるから平気なのか。

「もう一つ思い出した」
「なに」

 石間が髪をクリクリしながら鼻でフッと笑う。

「もう一つだけ木野に聞きたい事あるんだ」
「…なに」


 俺と友達になる気、ない?


「は? なんだそりゃ」
「あるのか無いのか」
「石間ってもう友達は飽和状態じゃん」
「おもしいよな、木野って…」

 しげしげと見つめられて、いつの間にか日曜日に予定を入れられた。
 今時、市立図書館に何しに行くってんだ。ケータイだって使用禁止ないわゆるつまらない場所に。
 ちなみに俺は、先週借りた写真集をそろそろ返しに行かなきゃとか思っていたわけだが。冷やかしに行くだけなら、俺はちゃっかり本返す予定あるだなんてダサイことは知られたくないな。
 まあいいか。
 俺と友達に、なんて、そっからしておかしいんだから。

作品名:ブローディア夏 作家名:しらとりごう